121 『マグニフィケイション』

 実は、《透視図法的実体パースペクティブ・レンズ》は解除できる。

 いつでも解除可能な状態にあった。

 フレドリックの魔力がサツキの刀に付着することで対象選定がなされたわけで。

 サツキには魔法を解除する魔法道具《打ち消す手套マジックグローブ》があるから、刀の刃に触れれば解除が可能なのだった。


 ――《打ち消す手套マジックグローブ》で触れれば、《透視図法的実体パースペクティブ・レンズ》を解除できる。相手は魔法を発動できなくなるだろう。その確認もしたいが、まだだ。もう少し観察したい。あわよくば、利用したい。


 戦闘において。

 あまりに絶大な効果を発揮するリーチの差。《透視図法的実体パースペクティブ・レンズ》によってそれを活用するためには、近づく必要がある。

 魔法の解除がないうちは、必ず接近戦をしてくれることにもなり、その間にサツキの優位が見えなければ銃撃による不意打ちもそうそうしないだろう。

 また、解除のタイミングが適切なら、誘い込むことに利用した上でカウンターを狙える。

 フレドリックにはそんな思惑を読ませたくない。

 勘づかれてはいけない。

 接戦の中で、サツキは戦術立案し、魔法解除のタイミングを見計らう必要があった。


「さて、城那皐。まだワタシの《透視図法的実体パースペクティブ・レンズ》の拡大率はわからないか?」

「……」


 目を閉じたままでも、サツキはフレドリックの全身を流れる魔力を見て三次元の図面を想像することで距離を測れていた。

 それによると。

 フレドリックとの距離が五メートルを切ったところで。

 スラリと、剣を抜いた。

 しかし剣はやはりまた本来の大きさよりも小さくなっていた。

 サツキは気づく。


 ――適用範囲が、五メートル以内なのか。


 フレドリックが剣を小さくして、サツキを斬りつける直前に剣を大きくしたい場合――

 五メートルまで近づく前から、剣を小さくしておけばいい。

 そのほうが効果を演出できる。

 あえてそこまで距離を詰めてから剣を小さくしたのでは、その手の内を見せることにもなりかねない。

透視図法的実体パースペクティブ・レンズ》の魔法特性を気づかれてもそれをするのは、その距離に入らないと魔法が発動できないから。

 そう考えてよさそうだった。


 ――対象の相手を設定したら、その相手から五メートル以内の範囲にあるとき、物体の拡大・縮小が可能となる。ただし、二メートルより遠いときは小さくしかできず、近いときは大きくしかできない。倍率は最大で五倍。一応、念には念を入れて七倍までは想定しておく。


 以上が、サツキの分析結果。

 これを踏まえて。

 サツキは答えた。


「最大で七倍、甘く見積もって五倍でしょうか」

「ク」


 と、フレドリックは笑った。

 今度は答えなかった。

 正解かもしれないし、不正解かもしれない。

 なにも答えぬまま、フレドリックはさらに近づき。

 両者の距離が、四メートルを切り。

 三メートルになろうかというとき。

 フレドリックは一気に斬りかかった。

 そして二メートル圏内に入ったところで、剣は大きくなる。

 ネタのわかったマジックほどつまらないものはないが、わかっていても回避できない視覚トリックは別だ。

 対応するのは容易ではない。

 巧みなコントロールで剣の大きさを操るフレドリックに、サツキは懸命に応じていった。

 それを見て、マサオッチが心配そうにつぶやく。


「あいつ、この短い間にそこまで見破るとは普通じゃねえ。いくらフレドリックさんでも、手の内がバレたらマズいんじゃないですか? 大丈夫ですかね?」


 しかし、ジェンナーロがフフンと鼻を鳴らした。

 おかしそうに口を歪めて、


「相手にもなにか考えがあるように、フレドリックにも奥の手はある。そして、フレドリックはそれを使わずともヤツを仕留めるくらいには、戦闘技術の優れた剣士だ」

「……ッスね」


 とマサオッチが言った。

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