97 『ワールドセオリー』

 この魔法世界において、魔法を使うには魔力を必要とする。

 その魔力は世界樹から地球規模で広がり出ていて、空気に染み出すようにどこにでもあり、人間は自然とそれを取り入れる。

 取り入れた魔力は身体の中にある回廊を流れてゆく。

 そして、魔力が魔法の使用を可能にするのだ。

 世界のことわり

 同時に魔法の理である。

 ゆえに。

 生きている以上、この星に住む生物である以上、魔力を肉体に含まない存在などない。

 魔力は必ず、なんらかの形で肉体に作用する。

 たとえば魔力は肉体を強化する効果も持つし、代謝を高めたり健康増進のための働きも持つ。

 そうなると。

 魔法とはどのようなものなのか。

 これは言葉にすれば簡単で、魔法は個別に発現される個性を持ったものをそう呼び、そのほとんどが後天的に身につく技術である。

 超常的な魔力の応用ともいえる。

 ブリュノの魔法はそうした前提を突いたものだった。

 魔法《魔封じ突きアンチ・マジック・フェンサー》は、他者の魔力に干渉する性質を持っていた。

 具体的には、レイピアが人体の中にある回廊を突き刺し、魔力の流れを遮断する。

 たとえば、右腕の二の腕を突き刺せば、それより末端に位置する右の手などは魔力が流れなくなってしまう。

 一定時間で自然治癒可能。

 効果継続時間は一時間。

 すなわち魔法使いキラーな術者がブリュノなのである。

 レイピアの腕は確かで、魔法の使用が禁じられている大会『ディセーブルコンテスト』での優勝のように、相手も同じ魔法なしの条件の元でならば、この魔法の使用すらいらないのがブリュノなのだった。

 常に正々堂々を好むブリュノらしい経歴であり、ゆえにブリュノはイーザッコに魔法を使用できないようにして、正体不明の《魔防領域デルタ》結界から引きずり出すことで、正々堂々の勝負をすれば負けない。

 チナミはそう信じていた。

 だが、ブリュノのレイピアはピタリと止まった。

 それも《魔防領域デルタ》結界に、レイピアが突き立った状態である。


「なに!?」

「一人の時間を邪魔しないでくれ。そこのジェントル」


 そう言って、イーザッコはまた銃弾を撃ち込んだ。

 今度は、ブリュノの右肩が撃ち抜かれた。


「くっ!」


 ブリュノがレイピアで突いても、イーザッコの《魔防領域デルタ》結界は破れなかった。

 結界より先に、レイピアが進まなかった。

 結界の向こうにいるイーザッコには、届きようがなかった。

 完全なる防御領域。


 ――《魔防領域デルタ》結界の正体って、まさか……。


 チナミは察した。

 消去法的に可能性を絞ってゆけば、残ったものが答えになる。

 ただし、まだ二択で迷う。

 名称、《魔防領域デルタ》結界がどういった文字を使うのか、会話の中で音でしか聞いていないチナミにはまだ二択で迷うしかできない。

 その二択とは。


 ――《魔防領域デルタ》結界は、魔法攻撃を通さないとでもいうの? それとも、何者も入ることができない禁断の空間?

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