77 『ソードドリフト』
アルブレア王国騎士がミナトを見つけ、剣を構えた。
ミナトには彼らの動きが見える。
見ずとも見える。
次に剣がどう舞い踊るのか。
それが感覚や空気感でわかってしまう。
相手の剣を読むつもりもないが、相手に合わせるのならば、あるいは最速で斬りたいのでなければ、まだ動くこともなかった。
だからミナトは一人つぶやく。
思うままに、考えをまとめるように。
「だれかに会いたい。特に、サツキに。きっとサツキは頑張ってることだろう。この超魔法的襲撃の真相を追って、必死に頭を働かせてる。けれども、辿り着く先にいるのは敵だけじゃない。オウシさんたち鷹不二氏がいる」
数年前まで同じ学び舎で共に過ごした旧友。
だからこそ、ミナトの記憶が告げるのだ。
あの人はただの人ではないと。
オウシの人となりであるとか、性格的な部分からの予測であるとか、そうしたデータを基にした先見ではなく、ミナトには読み切れない思考と行動をするオウシの計り知れなさ。
そこから導かれるのが、オウシたちがなにかをしてくれることと、きっと善意以上の計算を土台に深い親交が作り出されること、そして、サツキがいずれオウシのもとに集う勢力の一部に成り下がるであろうことだった。あるいはその楔を気づかずに打ち込まれることだ。
ミナトは高い雲を見つめ、そっと目を閉じ、まぶたの裏に旧友・オウシの姿を描いた。
「オウシさんも尋常ならざる叡智をもって僕たちに協力することは必至。あの人、僕なんかじゃァ推し量れないくらいすごいから、なにか狙ってるに決まってるんだ。ただ助けてくれるだけじゃない。そこが好きなところなんだけど。それを楽しめるだけの関係じゃなくなった。……となると、やっぱりサツキと合流して僕が力にならないと」
側にいないとできないことがある。
なにかはわからないが。
――きっと、サツキの頭脳に翼をつけられるのは、この『神速の剣』だと思うから。
ゆえにミナトはたゆたう煙か流れる雲のように漂い続け、サツキを探さなければならない。
「貴様! さっきからなにをぶつぶつ言ってる!? 我々はアルブレア王国騎士だぞ!」
アルブレア王国騎士の声がミナトをとがめる。
考えをまとめ上げると、ミナトは目を開けた。
さっき見つめていた雲は風に流れて、どこか別の雲にくっついていた。
「だから、そんなわけで僕にはいろいろな理由があるんですよ。サツキにいつどこで出会えるかは巡り合わせだけど、僕は漂い続けなければならない。ゆっくり戦っているヒマはないんです。斬らせてもらいますぜ」
刹那、二筋の白刃がきらめいた。
カチ、と刀を鞘に戻す。
光の轍が宙に残る。
その残滓が消える直前、歩き出そうとしたミナトの動きがピタリと止まり、振り返った。
アルブレア王国騎士たち二人の声さえ出る前に斬り伏せたのは一つ呼吸の間。
気づき振り返ったのは寸暇。
ミナトは殺気すら出さずに斬って捨てた。
しかしこの呼吸にまぎれて、ずっと後方で仕掛けてきた者があったらしい。
「騎士じゃァない。サヴェッリ・ファミリーか」
サヴェッリ・ファミリーのマフィアが三人いた。
さっき別れたばかりのフィリップとラーフが襲撃されて地面に崩れ落ちる。
フィリップとラーフはかなりの使い手といっていい。
コロッセオの舞台で魅せたコンビネーションも見事なものがあった。
しかし魔獣を喚ぶ召喚士と騎乗のランスでは戦術を選ぶ。
急襲には弱い一面を持つ。
「鮮やかだなァ」
ミナトが一歩進む。
その一歩目の足が地面に着く直前――。
消えた。
否、現れた。
サヴェッリ・ファミリーのマフィアたち三人にとっては、突如として、ミナトが目の前に現れたといったほうが正しい。
閃光のような瞬きで、フィリップとラーフを襲撃した二人のマフィアが血を噴き出して倒れる。
しかし、残る一人はミナトの剣をナイフで受けた。
「やりますね」
相当の剣術家でもミナトの剣技を受けるのは難しい。
特に、《瞬間移動》と同時発生した刃はなおさらで、その目に見ることすら無理な代物だ。
それが、ナイフをピタリと合わせて剣尖に合わせたのである。
やってのけたのは、小綺麗なスーツをまとった中年男性だった。
「ごきげんよう士衛組の剣士。キミは素晴らしい。手を組まないかい?」
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