74 『スケアリータイミング』

 ラファエルの《おどし》のひるみから解除されたサルマン。彼の硬直は解かれ、近くにいる者への攻撃を開始する。

 より近くにいたのは、ラファエルだった。

 サルマンはモーニングスターを振り回す。

 トゲのついた鉄球、すなわち星球がラファエルへと投げられようとする。


「そのモーニングスターの重さは、欠点になりすぎる」


 パチン、とラファエルがまた指を鳴らす。

 星球をぐるりと後ろに回したところで、サルマンは《おどし》のひるみを受けてしまった。


 ――後ろに重心が乗ったタイミングでのこれは、よく効くだろう?


 鎖につながれた星球を投げる性質上、直径50センチもある鉄の塊を遠くに飛ばすには、勢いをつける必要がある。飛ばすために蓄えるべきパワーは、この場合ぐるりと回して遠心力を加える動作によって得られるものが大半となる。

 ここで、これだけの重さのあるものをぐるりと回すとなると、星球を支えるための踏ん張りがどうしても要るわけだ。

 ラファエルはそこを見極めた。

 回された星球を支えるためには、手の力ばかりでなく、全身の力が使われる。特に足の踏ん張りが大事になる。よって、後ろに引っ張られないようサルマンが踏ん張るタイミングに合わせることで、踏ん張るための力が一瞬だけゼロになり、当然飛び回る星球を体重だけで支えられるはずもなく、サルマンは後ろに引っ張られた。

 サルマンは一人で後ろに倒れてしまうだろう。

 そこに、リディオが攻撃を加える。


「だあああ!」


 鋭い突きを繰り出す。

 拳はサルマンの右手に直撃。モーニングスターの持ち手がサルマンの手から離れて、星球が後ろに回された遠心力のまま鎖ごと持ち手も飛ばされてしまった。

 まだ畳みかける隙がある。


「はぁっ!」


 リディオがサルマンのあごを真下から突き上げるように殴り飛ばす。サルマンは宙に投げ出されて気絶。


「……」


 ラファエルが持っていたナイフを振り落とす。

 ナラヤンの右手を突き刺す。

 前のめりに倒れ伏していたナラヤンだが、リディオの拳を背中に受けてもまだわずかに指が動いたので、気絶はしていなかったとラファエルは見抜いていた。

 ナラヤンがまた動き出したところを、ラファエルは狙ったのだった。


「よ!」


 瞬時にリディオがナラヤンの首筋に手刀を叩き込み、今度こそナラヤンは気を失った。


「終了。お疲れ、リディオ」

「おう! ありがとな、ラファエル! 助かったぞ」

「いや、ボクの実力不足で手こずった。ヨセファのコントロール下にあって、バディーとしての連携もできず、彼らは普段より大幅に力を出せていなかったはずなのに」

「そんなことないぞ。ラファエルはぶっつけ本番で未知数のおれの《変圧作戦トランスギア》に合わせてくれただろ?」


 笑顔のリディオを見ると、ラファエルは表情がほころぶ。リディオの笑顔には不思議な力がある。ラファエルの心を落ち着け、心にゆとりをつくってくれる。


「ボク以外にだれが合わせるんだよ」

「あはは。そうだな」


 ラファエルはリディオの腕を見やり、


「どうやら、リディオの出血は圧迫してやれば問題なさそうだね」

「ホントだな! いつの間にか《きゅうけつさん》の効果が消えてるぞ」

「さて。彼らはいつまでヨセファの魔法《人格ツボ押しパーソナル・フィンガー》の効果を受けたままでいるのか。それがわからない以上、また暴れないように捕縛しておこう」

「そうだな。サツキ兄ちゃんへの連絡はもうすべきかな?」

「時間的にも次の報告にはいい頃合いだし、よろしく」

「わかった。シスター・ヨセファを逃がしたこと、サルマン選手とナラヤン選手を捕縛したことを伝えておくぞ」


 ラファエルは片目を閉じて、口元を小さく微笑ませる。


「あと、リディオの新技《変圧作戦トランスギア》がうまく言ったこともね」

「だな!」


 リディオはニッと笑って、《電送作戦トランスミッション》でサツキに報告するのだった。

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