73 『トランスギア』
ラファエルは舌打ちした。
――物足りないのは、実力が足りないのはボクじゃないか。わかっていたのに、リディオの課題を見つけてあげようとか考えて。もしボクにもう少し力があれば、もっと効率的に戦えたのに。
もし、ラファエルの魔法《プライベート・スケアクロウ》がもう少しその効果範囲を広げられれば、リディオだけをラファエルに近づけるようにして効果範囲に入れて、そこからヒットアンアドウェイをできる。
今回の対戦相手、サルマンとナラヤンに対してはもっとも有効な戦術になったはずなのだ。
すぐに作戦が思いつくだけに、ラファエルは悔しかった。
「ふん!」
リディオは《
だが、まだ血は噴き出していた。
布の上からも噴き出している。
不思議な出血の仕方だった。
あるいは、不思議な染み出し方だった。
「変わらないか」
出血量は変わらない。
ナラヤンは『バンパイアソード』の異名を持つ。
彼の魔法《
血を吸う様がバンパイアというわけだ。
つまり魔法で血を吸っている。
吸うというからには、血は花びらが地面に舞い散るように落ちるばかりじゃない。血の花は踏みにじられることなく、大地に吸われることなく、ククリナイフが吸収してゆく。
今リディオから流れた血も、地面にまき散らされたあと、薄い霧になってククリナイフへと吸い寄せられていった。
そして、当然ながら出血は止まらない。
出血量も変わらない。
腕から血飛沫を出すリディオだが、惨状に反して冷静だった。
「思ったより出血量は多くない。早めに倒すぞ!」
「わかった!」
血が飛散する。
その量は、リディオの言うように意外と多くないらしい。粒子状に放出するせいかもしれない。止血による効果こそないが、すぐに致命傷になるものではない。
平静になったラファエルは、ナイフを取り出した。ナイフを握り、自分も攻撃に加わることを決める。
再び、《おどし》を使った。
「今だ、リディオ! 武器を払え!」
「おう!」
パチン、とラファエルが指を鳴らすと同時に、サルマンとナラヤンがひるみ動きが止まった。
リディオは高速で動き、まずナラヤンの右手のククリナイフは右手首への手刀で落とし、左手のククリナイフは左手首をつかんで膝で蹴り飛ばす。この一連の動きを常人の倍以上の速度でできる《
すかさず、ラファエルはナラヤンの足元に落ちたばかりの右手にあったククリナイフを蹴り飛ばして遠くにやる。
これで、ナラヤンの持つ両手のククリナイフは遠くに飛ばされてしまった。追い打ちとして、リディオがナラヤンの背中に拳を叩き込む。ナラヤンは前のめりに倒れた。
またこのとき、ナラヤンのククリナイフは吸血の機能を失っていた。つまり、魔法の効果が切れ、リディオは血を奪われることから解放されたのである。しかし、二人はそれを気にする前に、すべきことがある。
サルマンも処理することだ。
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