69 『ノーマーク』

 三人の敵が、空間の入れ替えと共に現れた。

 ラファエルとリディオの視界に入った彼らもまた、こちらに気づく。

 たったの三人。

 彼らマフィアのボスでもない、単なる三人。

 だが、うち一人は、ちょうど話していたシスター・ヨセファである。

せんれいしゃ減遂荷寄端ペラッツィーニ・ヨセファは、普段はマノーラの街でシスターとして生活していた姿をリディオとラファエルは知っていた。それが実はサヴェッリ・ファミリーの幹部だと知ったのはついさっき。

 しかし側にいるのは、サヴェッリ・ファミリーのマフィアではない。マフィアでないことがわかっている人たちであり、リディオとラファエルには彼らに関する記憶もあった。

 リディオはぐっと拳を握って、ビシッとその拳を前に突き出した。


「おう! もちろんだ! 戦うしかないな! やるぞ、ラファエル!」


 ああ、と答えて、ラファエルは三人を見据えた。


「ちょうどよかった。ちょうど、鼻についてたんだ。因縁と呼ぶには未だ蕾だけど、こんな蕾の花は、ここで散らすに限るからね」

「へへ。ラファエル、やる気だな!」

「気合は入るよ。シスター・ヨセファはともかく、サルマンとナラヤン。彼らは強敵だ。まさか、大会参加者たちと戦うことになるなんて思わなかった」


『怒りの鉄球』渡練去漫ドネリー・サルマンと『バンパイアソード』賀唄矛楢楊ガウタム・ナラヤン

 本来、彼らとはサツキとミナトが戦うはずだった。しかし彼らは試合当日、姿を見せず失格となってしまった。失踪事件かとみんなで話していたのだ。


「なんの罪もない市民を利用するのは、ボクたち『ASTRAアストラ』が許さない。シスター・ヨセファ、あんたもここでつぶしてやるよ」


 ヨセファはニヤリと冷笑した。


「威勢がいいことですヨ、ラファエルくん。生意気な口ばかり利いて、普段のあなたらしくないですヨ?」

「そうかな?」

「ええ、ですヨ。それもこれも、自分の間抜けさに苛立っていらっしゃる? だってお二人共、今までアタクシがサヴェッリ・ファミリーとは気づかなかったようですけど。本当は知らないフリをしてくれていただけだったり? それとも、本気? だとしたら、『ASTRAアストラ』などたいしたことないのですヨ」

「ノーマークだったのは事実だけど、これで『ASTRAアストラ』にバレてるようじゃあんたに『せんれいしゃ』としての価値なんてないんだよ。ボクたち『ASTRAアストラ』からしたらさ、正体を隠せるのがマフィアをやる最低条件であって、それができただけじゃあんたを評価してやれないってこと」

「評価するのはこちらですヨ。そしてアタクシの評価では、あなた方は能力不足な上、地動説などを唱え神と歴史を愚弄するにんにんですヨ。恥を知りなさい」


 ラファエルは無表情にヨセファから視線を外し肩をすくめる。


「話にならないや。さあ、リディオ。試したら? ボクはサポートに回る」

「じゃあ行ってくる!」


 リディオが走り出す。

 すると、ヨセファがサルマンとナラヤンの背中に人差し指を突き立てた。


 ――きた。《人格ツボ押しパーソナル・フィンガー》。


 ヨセファの魔法《人格ツボ押しパーソナル・フィンガー》は、身体のツボを押すことで、術者・ヨセファの意のままに人格・性格を変えることができる。照れ屋や泣き虫などにするばかりでなく、あがり症の性質だけを弱めたりと特定の性質にも変化を与えることができる。

 そして、《人格ツボ押しパーソナル・フィンガー》は人を操るのにも使われ、コロッセオの魔法戦士を攫ったあと、彼らをマノーラ襲撃部隊に変えてしまったのだ。

 今もヨセファはサルマンとナラヤンをコントロールするために、なにかのコマンドを入力するようにツボを押したのだろう。


「リディオはヨセファを狙って。ボクはあの二人相手なら平気だから」


 ラファエルはポケットに手を入れたままリディオに告げた。

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