65 『ノットリラクタントリー』

 トンボの柄の封筒で、スモモに返信したサツキ。

 鷹不二氏の姫にして『運び屋』たかからの手紙が入っていた封筒であり、この封筒は再び閉じるとスモモ自身へワープして返信ができる代物だった。魔法《蜻蛉とんぼがえり》といって、これにより士衛組や鷹不二氏の面々に手紙で連絡をくれていたのだ。


「クコもスモモさんがいっしょなら大丈夫だろうけど、あんまりお世話になっても大きな借りを作ってしまうな」

「気が進まないの?」


 アシュリーに聞かれて、サツキは苦笑した。


「いいえ。いい人たちなので心配はないんです。ただ……」


 ちょうどそのとき、リディオの通信があった。

 サツキは言葉を切って、リディオの声に耳を傾ける。


『サツキ兄ちゃん。リディオだ、今いいか?』

「うむ。構わない」


 と、アシュリーに手のひらを向けた。


『報告。みんなへの連絡がようやく一通り終わったぞ。一度連絡しただけだから、そのあとみんながどうなったのかはわからない。注意しておくべきは、士衛組のみんなはバラバラってことだ。ナズナ姉ちゃんはチナミ姉ちゃんと離れ離れになって、迷子の女の子に出会ったって言ってた。迷子を家に送り届けてやるんだってさ』

「ナズナらしいな」

『で、ナズナ姉ちゃんが空から様子を見た限りでは、街は将棋の盤面みたいに四角で区切られてて、その四角が不規則に入れ替えられてる。少なくとも半径五キロ以上あるって話だ』

「そうか。その規模で街全体に魔法をかけられるとなると、かなりの使い手がいるようだ」

『サヴェッリ・ファミリーは情報の扱いもしっかりしてるから、だれがそれをしているのかもわからない』

「ふむ。俺のほうでももっと情報を集めてみる。それから、さっき聞いたのだが、クコが対峙した『洗礼者』ヨセファというシスターが、人格を変えて人を操る魔法を使うらしい」

『ヨセファ? 確か、マノーラにそんなシスターがいたぞ! サヴェッリ・ファミリーだったのか!』

「そのようだ。そして、クコは赤ん坊のように幼児化させられた」

『なんだって!? 幼児化までしちゃうのか! ん? てことは、サツキ兄ちゃんはクコ姉ちゃんといっしょか?』

「いや。俺はアシュリーさんといっしょだ。クコは、鷹不二氏の姫・スモモさんが面倒を見てくれる。シスターを取り逃がしたと、スモモさんから手紙をもらったんだ」


 鷹不二氏の名には、リディオはさほど驚かなかった。


『マノーラには来てるって情報は得ていたし、出会うこともあるよな。でも、この戦いにも巻き込んじゃったのか』

「不本意か?」


 リディオのリアクションの意図がわからず尋ねてみたが、カラッとした声で笑った。


ASTRAアストラと鷹不二氏は味方じゃないけど敵でもない。ライバルに近いかな。いや、友達って感じかもだ。ロメオ兄ちゃんは鷹不二氏の宰相、トウリさんを尊敬してるからな。ライバル意識があるのはレオーネ兄ちゃんとミツキさんだな』

「へえ。そうだったのか」


 考えてみれば、組織のトップであるヴァレンのカリスマで、最高幹部二人のうちレオーネが参謀役、ロメオが彼らの補佐役ともいえる。ロメオが補佐役として敬愛心を抱くのもおかしなことではない。

 しかし、サツキはトウリをよく知らなかった。ルカから聞いた話では、トップのオウシとは双子の兄弟で、オウシが兄、トウリが弟、ということだ。

 あの不思議な魅力を持つオウシからは想像がつかなかった。ロメオが敬愛する宰相とはどんな人なのだろうか。

 そして、ミツキは参謀役の少年だと記憶していたが、レオーネが意識するほどならばかなりの切れ者と思ってよさそうだった。


『まあ、おれたちは鷹不二氏の協力を拒まない。でも、鷹不二氏の狙いはおそらく士衛組だ』

「士衛組……?」


 リディオはころころと笑った。無邪気というより、素直におかしくて笑っているようだ。


『ラファエルがサツキ兄ちゃんは自分のことには鈍感なタイプって言ってたけど、確かにそうだな。サツキ兄ちゃん、士衛組は鷹不二氏が注目するに値する組織ってことだぞ』

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