63 『メンタルアリスメティック』

 オウシは、ミツキがえいぐみと出会ってくれるとよいと言った。

 その意図は、チカマルにもわからぬではない。


 ――おそらく、オウシ様は士衛組との仲を深め、士衛組に恩を売っておきたいのでしょう。しかし、それだけでもないかもしれない。いや、これからのことはすべて暗算しきったあとか……。


 わかったような口ぶりをされるのを好むオウシではないが、それは相手と機嫌と回答による。チカマルが相手なら的外れなことを言っても笑って機嫌は崩さない。

 ただ、ほかの理由があったとき、出過ぎた口を利いたくせに理解が足りないと思われてしまう。特に、常に遥か先の先を見据えて動く人なだけに、迂闊なことは言いたくなかった。

 オウシはいつものように、戯れに言った。


「おもしろいではないか」

「はあ」

「士衛組は個の強さがまだまだ未熟な組織じゃ。むろん、ミナトや『万能の天才』は除くがな。その士衛組を活かす道をミツキが示せば、士衛組は成長のきっかけを一つ掴む。これは是非もないことじゃ。いずれたかの味方、あるいは身内となるのだからのう」


 やはりずっと先を見据えての言葉らしい。


「なるほど望ましいことでございますね」


 チカマルが考えるような、士衛組との親睦は当然のこととして、鷹不二氏の未来を読んでいる。

 しかも、オウシの最重要目標たるせいおうこくの天下統一という事業において、えいぐみが味方か身内にまでなると考えているらしい。天下統一はたった数年で成せるものではないし、士衛組の目的はあくまでアルブレア王国の奪還であり、そのあとまで続く組織になるかもわからない。それなのに、オウシは士衛組が未来必要になる組織と確信しているようなのだ。

 むしろチカマルからすれば、これからもその力が世界レベルで誇示されるであろう『ASTRAアストラ』を注視していた。

 マノーラ騎士団が視界から小さくなると、オウシは歩き出した。


「ゆくぞ」

「はっ」


 またオウシの半歩後ろを歩きながら、チカマルは尋ねた。


「オウシ様。『ASTRAアストラ』は気にしなくてもよいのですか?」

「関わる以上、『ASTRAアストラ』も重要じゃ。まず、『ASTRAアストラ』に恩を売ったとして、なにを得たい?」


 おそらく、オウシはチカマルがなにを考えているかなどすべて見通しているのだろう。チカマルにわかりやすく教えるためか、オウシは疑問を投げた。オウシは案外人にものを教えることは嫌いではないのだ。


「もしもの時、必要な時、力を貸してもらえるとありがたいのではないかと」

「どんな力じゃ」

「ええと、『ASTRAアストラ』には様々な力がありますので、それを総括したものとしか考えていませんでした」

「まず、『ASTRAアストラ』の秀でた力は人員と情報力、そしてヴァレン、レオーネ、ロメオの力じゃ。これらを引き出すのに、局地戦闘で武力を使うばかりでなんになる。それは適当にゴスケが参加するだけで事足りるわ」

「つまり、ゴスケさんの武力による手助けが人員を借りるための」

「そうじゃ。これだけでは適当な人員を借り受ける程度の恩しか与えられぬ。局地戦闘を繰り広げようと、得られるのはそれだけじゃ」

「なるほど確かにそうでございますね」


 と、チカマルは納得した。

 本当に局地戦闘なんか気にしていないらしい。その証拠に、オウシは目の前にマフィアがいたのに平然と通り過ぎる。チカマルがチラと彼らを見たところでは、銃の所持なども危険だし、ここで倒してやりたい相手が二人だけだが、オウシは構わずしゃべり続ける。


「むしろ、わしらは情報戦を制することを考えたい。『ASTRAアストラ』の情報収集能力と情報伝達能力は驚異的ゆえ、今回わしが至極有益な情報を得て『ASTRAアストラ』に渡せれば、それはまた別の大きな恩になる」


 ここで、『ASTRAアストラ』の名が聞こえたマフィアがオウシとチカマルを振り返った。

 しかしオウシはまったく気にしない。


「そして第三に、やつら個人の力じゃが、これは運任せ。もし三人のうちだれかに出会えて共に行動できれば、あとで個人を召集することさえできるやもしれぬ恩となろう」

「てめえ! 『ASTRAアストラ』か!」


 マフィアが銃口をオウシに向ける。

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