61 『ショックウェイブ』
チカマルは静かに返事をする。
「はっ」
道の先には、マノーラ騎士団が数人とサヴェッリ・ファミリーのマフィア数人が戦っている。
そちらへ目がけて、オウシが肩で風を切るように歩いてゆく。
マノーラ騎士団はマフィアとの戦いに真剣で、オウシの存在など気にかけていないし、マフィアもオウシを知らないと見える。
ここはオウシに任せて、チカマルが手出しする必要はない。そんな場面だが、チカマルは目を瞠り、オウシの動きに合わせて魔法発動の準備をしていた。
『波動使い』オウシは、口を開く。
「たのもー」
特別オウシの声が大きかったわけではない。しかし、オウシの声は《波動》の力をまとっていて、なぜだかよく聞こえる。
さらに、そこにチカマルは《
――オウシ様のお声は、普通ならば《波動》をまとっているせいか、よく響きよく届く。しかし、戦闘中の彼らには目の前の相手に夢中になっているゆえ、届かない可能性もある。オウシ様は聞き返されるのを嫌うお方。念には念を。
基本的にはとらえどころなくも穏やかなオウシだが、聞き返されて同じことを二度言う手間が大嫌いで、ご機嫌だったのが一変して不機嫌になってしまう。
オウシもチカマルの魔法が発動したことはわかったようだが、差し出がましい真似をしたとも思われなかった。マノーラ騎士団とマフィアが一斉にオウシを見て声が届いたからだろう。
オウシは続けて、
「わしは
「『波動使い』鷹不二桜士様が、士衛組と『
と、チカマルも言葉を添える。
それらを聞いて、マノーラ騎士団の一人が言った。
「鷹不二って、『
「いや、『
「確かにあの『波動使い』は革命児とは言われてるが、ロメオさんが鷹不二氏の宰相を尊敬し手紙のやり取りもする仲なのを知らないのか? すごい助っ人が来てくれたよ」
マノーラ騎士団は仲間の会話を聞いて、わーっと盛り上がった。オウシの名前はイストリア王国のマノーラでは中途半端に知られているようだが、強力な助っ人が来てくれたことは理解できたらしい。
それに比べて、サヴェッリ・ファミリーは敵が増えたことに苛立ったように声を上げた。
「だれが相手だろうとおれたちのやることは変わらねえ! やっちまえ!」
「おう!」
近くにいたマノーラ騎士団から標的をオウシに変える者も二人いたが、オウシは懐手をしたままのんきに立ち尽くす。
「りゃりゃ、都合がよいわ。来い」
笑って、オウシは敵二人を引きつける。
「クソ、笑いやがって!」
「おれたちを敵に回したこと、後悔させてやる!」
ナイフで斬りかかってきたマフィアには、そのナイフを指で挟んで止めて、キッとにらむ。
「ずおぉ!」
ビリッとしびれたような衝撃がマフィアの全身を駆け抜け、カクッと首をもたげて気絶してしまった。
もう一人のマフィアが打撃の素振りを見せ、しかし直前で銃を抜いて発砲してきたが、「ひっ」と口をゆがめたマフィアの顔は、一瞬ののちには瞳を大きく見開いて、
「て、てめえ、なにしやがっ……」
そう言いかけたところで、オウシはそのマフィアの肩に触れた。すると、マフィアの身体は電気ショックを受けたように跳ねて震えながら倒れて気を失ってゆく。
「全部ただの《波動》じゃ。やがて目覚める」
これを見ていたマノーラ騎士は驚いた。
「銃弾を跳ね返した……これも、《波動》の力なのか! これが、『波動使い』鷹不二桜士なのか!」
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