57 『コンフィバトル』

 鷹不二氏の参謀役、『しょうねんぐんおかもりみつは旧知の相手と再会した。

 マノーラの街のあちこちで空間の入れ替えが起こったせいで、こうして出会えたのは、奇縁というものだろう。


「空間そのものに干渉する魔法、か。お二人も無事だといいですが……。まさか、あなたに会うとは思いませんでした。お久しぶりですね」


 そう言った相手は、『ASTRAアストラ』の最高幹部である。


「ああ。久しぶり、ミツキ」

「街に異変が起きたようですが、なにか知りませんか? レオーネさん」


 ミツキが出会ったのは、『千の魔法を持つ者』振作令央音ブレッサ・レオーネだった。

 レオーネは腕を広げて、


「あまりに起きてすぐの事象だからね。オレには正確なことはわからない。が、想像を話そう」

「得意の推理を聞かせてくれる、と」

「オレにそんな特技はないよ、ミツキ。ただ、マノーラ騎士団からはたまに探偵役として『ASTRAアストラ』に事件は持ち込まれるが」


 と、レオーネは肩をすくめる。


「普段から推理力を鍛える機会があっていいですね」

「よくない事件ばかりだよ」


 ミツキは、レオーネのことをよく理解していた。

 鷹不二氏と『ASTRAアストラ』が互いによく知っているだけでなく、組織のブレーンの一人である点で共通する二人だから、年の差は四つあるが意識し合う間柄でもあった。

 特に、レオーネはミツキを意識しているらしい節がある。

 逆にミツキからすれば、レオーネは『ASTRAアストラ』のブレーンとしての働きにとどまらないマルチな能力を、世界トップレベルで発揮する人物であると認識し注目もしていた。

 だが、ミツキはクールにそれを表にも出さないが。


 ――レオーネさんの魔法《盗賊遊戯シーフデュエリスト》は、他者の魔法をカード化して使うことができるものだ。いわゆる魔法のコピーをカードにするような仕組みだが、これには条件がある。カード化する魔法の原理を理解すること。そのために、レオーネさんは類い希なる洞察力と分析力、そして推理力で魔法を把握してしまう。レオーネさんにとって、推理力はその全能を顕在するための核となるべき要素といえる。


 ゆえに、推理力こそがレオーネのもっともすごいところだとミツキは見抜いていた。


 ――そのレオーネさんが言うのであれば、私はその推理を確かな情報として信じよう。だが……。


 ミツキは腰に下げた愛刀『とこぜん』に手をかけて鯉口を切り、


「銃と剣、ですか」


 つぶやき、レオーネの右後方と左後方へと順番に視線を投げた。

 敵の確認が済む。

 おそらく、風貌からしてマフィアだろう。

 この動作で、マフィア側もミツキが気づいたことを理解する。マフィア二人も構えを取った。

 しかし業物八十振りの一つであるそれを振るまでもなく、ミツキはカチッと刀を鞘に戻して構えを解く。

 なぜなら、レオーネがマフィア二人を処理してくれたからだ。


「《フォッサファルサ》、《ポルタネッビア》」


 レオーネの手の中にあった二枚のカードが宙を舞い、カードが後方へと飛んで消える。剣を持ったマフィアに一枚目のカードがぶつかって消えるが、二枚目のカードは銃を持ったマフィアにはぶつからず上空で消えた。


「うあああああ!」


 銃を持ったマフィアは目を泳がせると、手足を動かしてじたばたして、叫び声を上げて気絶した。

 また、剣を持ったマフィアはキョロキョロし始めて、


「な、なにしやがった! いや、まさか、また空間が入れ替わったのか?」


 としゃべり出す。

 そして、レオーネが軽やかに飛んでマフィアの目の前にやってくると、レオーネが肩にかけていた上着の袖が動き出し、マフィアを殴り飛ばした。レオーネの上着は《ファブリックアームズ》という魔法で、袖が本物の腕のように自在に動くのだ。


「どあァ! ど、どこから殴りやがった! おれになにをした!」


 まだ威勢良く怒鳴るマフィアに、レオーネは問うた。


「その問いに答える前に、オレから質問だ。ボスはどこにいる?」

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