55 『カインドセンダー』

 サツキはアシュリーと共に、マノーラの街で警鐘を鳴らして回っていた。

 主に、アシュリーの魔法によって行われる。

 アシュリーは《光文字ライトサイン》という魔法で、空中だろうと地面だろうとどこにでも光る文字を書くことができる。

 街中に、


『サヴェッリ・ファミリーがマノーラの街を襲撃中。標的は『ASTRAアストラ』、士衛組、マノーラ騎士団。一般市民のみなさんはなるべく外に出ないように』


 と書いていった。

 最重要の目的は、マノーラ中で起こる混乱を最小限に抑えること。

 同時に、サツキはサヴェッリ・ファミリーのボスの居場所も探していた。


「なかなか情報が得られないね」

「そうですね。あのあと遭遇したマフィアも二人だけ。しかも、なにも聞き出せませんでしたから」

「幹部とか、ポジションのある人じゃないと、詳しいことは知らないのかもしれないね」

「はい」

「街の人たちも、まだまだ外にたくさんいる。わたしが書いた《光文字ライトサイン》を読んでくれたのも少数だろうし、もっと街を落ち着かせられるといいな」


 アシュリーは、兄のサンティが心配だった。マノーラ騎士団に任せたとはいえ、それで一度、目の前で攫われている。そのときには士衛組の忍者・フウサイが取り返してくれたが、また狙われない保証はないのだ。

 しかし、今のアシュリーには役目があるから、なるべく兄のことを考えないようにしていたのだった。兄のためにできることなど、今のアシュリーにはないからである。


「アシュリーさん。今度はそのあたりに書いてもらえますか?」

「うん、いいよ」


 指先を光らせ、アシュリーが《光文字ライトサイン》で警戒のメッセージを書いてゆく。

 サツキはアシュリーが《光文字ライトサイン》を書いている間、周囲を警戒しながらつぶやいた。


「封筒……」

「え? なに? サツキくん」

「突然、封筒が目の前に現れたんです」


 チラとサツキのほうへと視線をやると、確かに、空中に封筒が浮いている。いや、ひらひらと落下してゆく。


「……」

「取らないの?」


 気になってアシュリーが尋ねると、サツキの瞳が緋色に輝いていることに気づいた。


「魔法の封筒、なのかな?」


 アシュリーがキャッチしようとすると、


「触らないで」


 とサツキが言った。


「う、うん」


 パッとアシュリーが手を引っ込める。


「すみません。この封筒には魔力が見えるので、魔法効果があると思われます。調べるのでちょっと待ってもらえますか?」

「わかったよ」

「これを送ってきたのが敵か味方か、それによってどうすべきかが変わります」


 さて、と思いサツキはこめかみを軽く叩く。

 魔法を使用したのである。


 ――《透過フィルター》発動。


 こめかみを人差し指で叩くと、物体を透過して見ることができるのだ。叩く回数によって透過する物体の数が異なり、たとえばマトリョーシカのように何重にもなったものの中身が見たければ、その数だけ透過すればよいことになる。ただし、今のサツキにできるのは透過枚数五枚くらいだが。

 地面に落下した封筒を透過してみて、サツキは中身を確認した。


 ――透過精度の調整がうまくいくようになったおかげで、よく見える。しかし意外だったな、差出人は鷹不二氏。スモモさんか。

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