54 『セパレートシールド』

 いつ《水ノ人形兵アクア・パペット》が目の前に現れても、ルカは対処できる心構えだった。

 ただし、問題もある。

 ルカの魔法は物体のコントロールであり、槍などの物体が《水ノ人形兵アクア・パペット》に接触してもただの水を通り抜けるように、攻撃はすかされてしまうのだ。

 殴りかかってきた《水ノ人形兵アクア・パペット》。

 槍を操って、ルカは《水ノ人形兵アクア・パペット》の攻撃から身を守ろうとした。

 だが、やはり《水ノ人形兵アクア・パペット》は槍を通り抜け、かと思えば、《水ノ人形兵アクア・パペット》の身体に槍がめり込んだような格好のままルカを殴った。


「きゃっ」


 ボクシングのグローブで殴られたような衝撃を、右の腕に受けた。

 そのあと即、ルカは自分に槍を飛ばして、槍がルカの脇に入り、脇に挟んで宙を浮き、《水ノ人形兵アクア・パペット》と距離を取った。


 ――くらってみてわかったわ。人の拳とは感触が全然違う。やっぱり、完全な固形化ではなく半固形化程度のもの。硬度のコントロールさえできるかもしれないけど、少なくとも実戦の中で調整できるのはあの程度がせいぜいなのかしら。ちゃんと受けて急所を避ければ、生身でも一回や二回の殴打は耐えられる。


 身体を覆う魔力が大きく肉体も丈夫なサツキやクコなら、もう少し耐えられるだろう。しかしルカにはそれが精一杯に思える。


 ――ただし、生身でなければたいしたことはないわ。さっきも、ギリギリのところで盾を《お取り寄せ》したからちょっとした衝撃だけで済んだ。


 実は、ルカは《水ノ人形兵アクア・パペット》の攻撃を受ける直前、《お取り寄せ》の魔法で別空間から盾を出現させていた。


 ――先生にもらったばかりの盾、さっそく実戦で役立ったわね。盾の大きさは二メートル四方といったところ。でも、分離式だからピンポイントで使った。だから『水軍司令ネイヴィー・コマンダー』も私の盾に気づいてないでしょうね。


 玄内からもらい受け、実戦投入された盾。これは玄内特製で、分離式になっている。デザインとしては武士の甲冑を正面から見たような形で、さっきの攻撃を受ける際には肩に当たる部分だけを使ったのだ。


 ――上からの剣撃が来ても、兜のツノで受け止めることができるし、強度も確かで分離もできるから、あと大事なのは私が盾を広げるタイミング。修業以外では初めて使ったけど、悪くないわね。


 さて、とルカは再び《水ノ人形兵アクア・パペット》の分析に戻る。


 ――盾がうまく機能したおかげもあるでしょうけど、ダメージソースとしては《水ノ人形兵アクア・パペット》による殴打は効果が小さいわ。一方で、《水ノ人形兵アクア・パペット》に武器を持たれると強力だけど、こっちの剣や槍で打ち合えるようになる。でも、どっちみち《水ノ人形兵アクア・パペット》そのもにはダメージが入らないわ。そうなるとやっぱり、私も『水軍司令ネイヴィー・コマンダー』本体に攻撃していかないといけないようね。


 ビーチェはルカの操る槍を攻撃などしないが、ルカはビーチェ本体より《水ノ人形兵アクア・パペット》の攻撃に追われている。


 ――それにしても……。


 視界の端にいるヤエを一瞥する。


 ――鷹不二氏は私たち士衛組に加勢するとは言ってなかったわね。いっしょに行動しようと言っただけだわ。ヤエさんは、私の戦闘を見て値踏みしているのかしら……?


 鷹不二氏が関わる必要のない争いだ。しかし、鷹不二氏と士衛組は一応だが友好関係にある。それでもこの場面で加勢しないのは、ルカを見たいからのような気がする。


 ――ミナトとオウシさんが旧友だったのにも驚いたけど、せっかくつながりもあるし、鷹不二氏とは仲良くしておきたい。ここで私が一軍艦のヤエさんに認めてもらえれば、鷹不二氏との友好も深めやすくなるわよね。


 せいおうこくを騒がせている鷹不二氏は、新戦国の世で急速に力をつけている。彼らとの友好、交流は士衛組にとって有益なものになるように思えるのだ。

 目の前の敵に集中すべきところだが、ルカはそんな打算も胸に抱いていた。

 士衛組の成長と飛躍は、参謀役のルカにとって常に考えるべき事柄だからだ。

 いや、それだけではなく、士衛組を大切に思えばこそかもしれない。

 余計な打算も玩味し、ルカはいよいよ自分から仕掛けてゆく。


「いくわよ、『水軍司令ネイヴィー・コマンダー』」

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