47 『エレガントピアース』

「な、なんだ!?」

「前が見えねえ!」

「砂が目に入りやがる!」


 マフィアたちがひるんだ隙に、チナミは通りに飛び降りて、彼らの持つ銃器をクナイで払い飛ばした。


「おわぁ!」

「な、なんだっ!?」

「クソ! おれの銃が!」

「やりやがったな!」


 その場にいた四人のマフィアが丸腰になったところで、チナミはすぐさま《潜伏沈下ハイドアンドシンク》で地面に潜る。

 ついさっき行動不能にせしめた騎士らと同様に、マフィアたちの身体を地面に埋めてやり、チナミ自身はひょこっと地上に出る。


「《みんえん》」


 チナミが彼らの顔の前で扇子の風を送り、魔法で四人を眠らせた。

 砂嵐が止むと、この場にはチナミのほかに般市民に扮した『ASTRAアストラ』の青年が立っているのみとなった。

 青年はマフィアたちが目の前から消えたことに「あれ?」と驚き、それからチナミに気づく。


「あっ。あなたは、士衛組の……」

かわなみです」


 チナミを見下ろすように視線を下げた青年は、マフィアたちが地面に埋まっているのを遅れて見つけた。


「まさか、チナミさんがこのマフィアたちを?」

「はい。でも、もう大丈夫です」


 そう答えた直後、チナミは背後に殺気のような気配を感じた。

 振り返り様にクナイを構えるチナミ。

 素早く視線を走らせると、マフィアが数メートル離れた物陰から拳銃を構えているのが確認できた。


「よく大丈夫なんて言えたな?」


 マフィアが引き金に指をかけたのを見て、チナミは地面に潜ろうとするが、踏みとどまる。


 ――まずい。私だけならよけられるけど、この人を銃で狙われたら……。


 また砂嵐を巻き起こして目くらましをしようにも、その動作の間に発砲されてしまう。

 チナミの背中を冷や汗が走り、思考がまとまらず身体が固まった。


「!」


 瞬間、マフィアの手から銃が弾き飛ばされ、その身体に幾度か衝撃が与えられた後、彼は気を失って倒れた。

 どさりと倒れたマフィアの後ろから、堂々とした足取りで人影が現れる。


「やあ。お日柄もよく。『もう大丈夫』。そうキミが断言したのも、ボクがいると気づいてのことだね。同時にその言葉は、ボクの麗しい剣技を見たいというリクエストでもあった。だろう? チナミくん」

「あなたは、ブリュノさん」


 純白の騎士服をまとい、細い剣・レイピアを手に持っている。そのレイピアを腰の鞘に戻して、流れるようにウインクした。

 コロッセオの魔法戦士、『ジェントルフェンサー』庭冷瑠葡流之バヴィエール・ブリュノ

 彼は、サツキと試合してサツキを気に入り、大会の応援にも来てくれた青年である。年は二十代前半、身長は一七七センチでスマート、そして顔立ちが整っている。

 ハンサムでエレガントな騎士であり、その佇まいの割に、常に自分のペースを崩さない。

 チナミもいっしょに試合を観戦したからよくわかる。

 サツキ曰く、剣技も一流であるらしい。そのブリュノが、颯爽とこの場に現れ、マフィアの銃をレイピアで弾き飛ばしたのだ。さらに、数度の突きで相手を行動不能にしたのだった。


「そう、ボクはブリュノ。シャルーヌ王国が生んだコロッセオのスターだよ。キミたち士衛組が未来に輝くスターであるようにね」

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