48 『ゲットフェロー』

 チナミのピンチに際して、優雅な登場をしてみせたのは『ジェントルフェンサー』庭冷瑠葡流之バヴィエール・ブリュノだった。

 コロッセオの魔法戦士であり、サツキと戦ったことでサツキと仲良くなったらしい。


「なぜここにいるんですか?」


 思ってもみなかったタイミングでの意外な人物の登場にも淡々と尋ねるチナミだが、ブリュノは爽やかな微笑で胸に手を当てる。


「世界はいつも、ボクへの興味関心を絶やさない。あぁ! ボクも世界に聞きたいことがあるというのに」

「……では、お先に質問をどうぞ」


 ブリュノはおかしそうに笑った。


「ふふ。ボクとキミの仲じゃないか。チナミくんからどうぞ」

「……じゃあ。なぜここにいるんですか?」


 さっきも聞いたがもう一度聞き直す。


「世界がその姿を変え、ボクに微笑みかけたからさ。それだけのことなんだ」

「要するに、空間の入れ替えに巻き込まれたということですね」

「なるほど。やはり、空間そのものが切り取られるように入れ替わっていたということか。そして、それを仕掛けたのは士衛組の敵。同時に、『ASTRAアストラ』の敵。それすなわち、サヴェッリ・ファミリーだったということか」


 なぜか襲われた『ASTRAアストラ』、そこに助けに入った士衛組。その共通の敵がサヴェッリ・ファミリーだと看破したらしい。素晴らしい洞察力である。

 ブリュノは《魔封じ突きアンチ・マジック・フェンサー》という魔法を有し、レイピアで突き刺すことによって、魔力の流れる回廊を遮断する。それをされた相手は、刺されたポイントより先には魔力が流れなくなり、当然ながら魔法も使えなくなる。

 そうした魔法を戦術に組み込むブリュノだから、相手の弱点を見つける洞察力を持っているのもうなずける。

 魔法の使用が禁じられている大会『ディセーブルコンテスト』では優勝経験を持ち、現チャンピオンでもある。そんなブリュノには相手の分析と状況把握はたやすいことなのだろう。

 しかし、もしかしたらチナミの知らない情報を知っているかもしれないと思い、疑問を投げかける。


「なぜ、この人たちがサヴェッリ・ファミリーだと……?」

「この空間の入れ替えが起こる直前、マノーラ騎士団が『サヴェッリ・ファミリーだ!』と叫んでいたのを聞いてね。ピンときたんだ」

「ご明察です」


 ブリュノは持ち前の分析力を発揮しただけで、情報はほとんど持たないようだ。


「さあ、さっそくボクたちも行こう」

「どこへ、ですか?」


 無表情ながらも内心で困惑するチナミに、ブリュノは構わずに言った。


「町で暴れるサヴェッリ・ファミリーの人間たちをおとなしくしに行くのさ。ボクたちが協力すれば、サツキくんも動きやすくなる。いや、サツキくんの進む道をつくれる」

「そうですね。ご協力、感謝します」

「ボクはただのジェントル。なんの遠慮もいらないよ」


 かっこよく言い切って歩き出す。

 心根も佇まいもステキなジェントルだが、チナミは彼の後ろにちょこんと続いて言った。


「無策に歩いて行かないでください」

「麗しき士衛組の賢者であるキミは、もう考えがあるのだね。さすがだよ、チナミくん。さあ、歩きながらでいい。話してくれたまえ」

「まず、歩くならこっちです。私も策があるわけではありませんが、私が来た方角なので敵もいません」


 一人では少数相手の奇襲がせいぜいだったが、コロッセオの実力者ブリュノがいっしょならば、仲間との合流が遅れても戦える。相手にできる敵の数が増えれば、おそらく主犯を突き止めようと動いているはずのサツキやレオーネとロメオの助けにもなるだろう。

 チナミは強力な助っ人を得られたといえる。

 マイペースなブリュノに振り回されつつ、チナミはブリュノとの行動を開始したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る