41 『パーソナルチェンジ』

 ヨセファはさっと下がって、クコとスモモから距離を取った。

 スモモはヨセファの追い打ちがないことで、魔法の発動を確信した。


「ねえ、クコちゃん。今、なにされた?」


 しかしクコからの返事はない。

 不思議に思って近寄ると、


「ひえー!」


 とクコが叫ぶ。


「ど、どうしたの?」


 クコは、両手で顔を押さえて、しゃがみ込んでしまった。


「やんだぁ、あたす、人前で剣なんて振り回すて目立ってんべよ。あー、恥ずかすぃー」


 思わずスモモは苦い声を漏らす。


「なに……あれ……」

「アタクシの魔法、《人格ツボ押しパーソナル・フィンガー》ですヨ。身体のツボを押すとアタクシの思いのままの人格・性格に変えられますヨ。熱血漢や泣き虫、怖がり、寂しがり屋など様々ですヨ。また、特定の性質を弱めたり消したりもできますヨ。たとえば、あがり症の性質だけを弱めたり消したりもできるということですヨ。さらに、しゃべり方も変わりますヨ」

「じゃあ、今のクコちゃんは……」

「で・す・ヨ。恥ずかしがり屋になっていますヨ」

「は、恥ずかしがり屋、かぁ……」


 とスモモは苦笑いを浮かべた。


「スモモさんも見ねぇでけろ、言わねぇでけろー!」


 耳まで赤くして恥じらうクコに、スモモはこれ以上の言葉をかけられない。

 ただ、スモモは、


 ――これされるのがわたしじゃなくてよかったー……。


 と思った。

 得意そうに口元を微笑ませ、『洗礼者』ヨセファはカツカツと階段をのぼり始める。


「アタシは相手の人格を改めるのですヨ。ゆえにアタシは『洗礼者』と呼ばれますヨ。次は、あなたですヨ」


 腕を広げてクコとスモモを見下ろすヨセファ。


「あなたの戦術はわかった。いいよ、わたしが相手してあげる」

「そんな余裕な顔で、いい度胸ですヨ。やってしまうがいいですヨ!」


 ヨセファの指示で、物陰から二人のマフィアが姿を現した。

 おそらくサヴェッリ・ファミリーのマフィアであり、スモモともあまり年頃の変わらない若い男女だった。二人だけのようだ。


「うおおお!」

「たああああ!」


 スモモの左右から襲いかかってこようとしている。銃も持っているかもしれないが、距離と腕の問題か、得意な武器の問題か、二人はナイフで斬りかかろうとしていた。


 ――右の女はわたしでも腕力で勝てる。左の男だけ、一瞬動きを止められたら充分だね。


 それぞれの位置を確認すると、スモモはタッと地面を蹴って、右から襲ってきた女との距離を詰め、胸ぐらをつかんで建物の壁にガンと打ちつける。頭を打たれた女は気を失った。


「まずは一人」


 同時に、スモモは袖から風呂敷を取り出して、そこにじゃらっとなにかを入れた。


「《はこぶね》」

「『運ぶね』? なにかするつもりですヨ!」


 ヨセファが男に注意喚起する。

 すると、マフィアの男の足元に、突如としてまきびしが散らばり、それを踏んだ男が悲鳴を上げる。


「いってえええ!」


 まだ状況がわからず、


「な、なんだ!?」


 と言ったときには、スモモは植物の植えられた鉢を風呂敷で覆っていた。

 そして、男の頭上からその鉢が降ってきた。


「うげっ!」


 大きな鉢を頭にくらって、マフィアの男も気絶してしまう。

 スモモはパッと風呂敷を払って、


「はい、終わり。さあ、あなたの番だよ」

「なるほど、その風呂敷が秘密の代物ですか。アタクシに、その手は効きませんヨ」


 ヨセファは人差し指だけを立てたポーズで得意げに言った。

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