40 『ヴィケアリアス』

 ヨセファはなかなかの身のこなしで、大きな十字架を持ちながらもしっかりと着地し、態勢を整える。


「たいしたものですヨ! このアタクシの攻撃を寄せ付けず、回避してみせるとは。あまつさえ、アタクシを投げ飛ばしたあなたの実力、悪くありません。利用価値はありそうですヨ」

「利用価値?」


 クコが警戒しつつ十字架を見るが、そこになにか仕掛けられた気配はない。


 ――あの十字架は、なにかに使われる可能性が高い。だから、絶対に手放さなかった。しかし、わかりません。わたしの力をなんらかの方法で利用できるような能力があるようですが、十字架は関係ない……? いいえ、あるはずです。


 スモモが横から口を挟む。


「で、利用価値があればどうするっていうの?」

「利用するのですヨ」

「へえ、そのままじゃん。じゃあ、わたしは?」

「知りませんヨ。ただ、邪魔をするのなら放っておけないのですヨ」


 ヨセファはクコとスモモを見比べ、瞬時に判断を変える。


 ――狙いは士衛組と『ASTRAアストラ』。この女はどちらでもない。魔法もわからない。ならば、おとなしくしていてもらったほうがよさそうですヨ。先に、あっちをやりますヨ!


 ターゲットをスモモに変更したヨセファが、駆け出す。

 スモモへと走って行くヨセファを見て、クコもそちらに向かって走って行った。


「待ってください。スモモさんは関係ありません」

「見せてあげますヨ」


 クコが追いつく前に、スモモの元へヨセファは行き着いてしまうだろう。

 しかし、スモモにとってはそれは構わなかった。


 ――クコちゃんの力もちょっとは見せてもらえたし、わたしがやってあげてもいいか。でも、シスターの魔法も気になるんだよねえ。人差し指に意識が集まっているのがわかる。絶対、あの指でなにかするつもりだ。


 スモモがヨセファの魔法を楽しみに構えていると、クコがダッシュで駆け寄り、ヨセファに剣を突き出した。


「やあああ!」

「思ったより速かったですが、追いつきませんヨ」


 しかし、ヨセファの予想に反して、クコは足にもグリップ力を働かせて、一気に追いついた。


「足に《パワーグリップ》を使って、飛び込みセーフです! スモモさんには手出しさせませんよ!」

「まさか! ちっ!」


 ヨセファが舌打ちする。

 このとき、スモモはただよく見ていた。


 ――来るよ、クコちゃん。


 ヨセファの手は拳が握られている。しかし、スモモが気づいていた人差し指だけは握られていなかった。


 ――人差し指で、押した?


 人差し指が、クコの肩を押したのである。

 グイッと、クコの肩にヨセファの人差し指が食い込む。


「きゃああっ!」


 クコの悲鳴が上がった。


 ――わたしをかばったりなんてしなくてよかったのに。クコちゃんはお人好し過ぎる! おそらく、シスターの魔法が発動した!


 スモモはヨセファの追撃に備えて構える。

 ヨセファは言った。


「あなたがくらったならそれもいい。邪魔物は排除しました。《人格ツボ押しパーソナル・フィンガー》ですヨ」

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