39 『プレッシャーポイント』
着物の袖が風に踊る。
短い髪を揺らせ、クコの隣に降り立つ。
それは、鷹不二氏の姫だった。
「やあ、クコちゃん。話は聞かせてもらったよ。わたしたち鷹不二が手を出すのは余計なお世話かもだけど、クコちゃんの気持ちに心打たれちゃった。だから、加勢させてよ」
「スモモさん」
つい、クコは呆気に取られて返事を忘れた。
姫でありながら鷹不二氏が編成する鷹不二水軍のトップ、一軍艦に属し、『運び屋』の異名をとる。一軍艦の操舵手にして、鷹不二氏の通信役を担う。
兄のオウシとトウリが二十三歳なのに対して、スモモは今年十八歳になる。
新戦国の世でも屈指の美女と言われることもあるが、本人が軽快で親しみやすい性格であるために、人気がある反面ほとんどだれとでも友だちのような関係なのである。
クコがいつまでも驚いた顔をしていると、スモモは笑いながらぽんと背中を叩いた。
「ほら。戦うんでしょ?」
「あ、はい! そうでした!」
ヨセファは動じることなく、スモモを見る。
「あなたの情報はありませんが、『
「え~。ちょっとくらい加減してくださいよ。わたし、あんまり戦うの得意じゃないんですって」
ニコニコ答えるスモモに、ヨセファは少し苛立った声で、
「自分の立場がわかってないようですヨ」
と吐き捨て、駆け出した。
スモモはチラとクコを見て、
――さあて。最初からわたしがやっちゃってもいいんだけど、まずはお手並み拝見といこうかな。クコちゃんの実力、楽しみ~。それと、あのシスターの魔法も見ておきたいよね。場合によっては、お兄ちゃんに報告しないとだし。
ヨセファの最初の狙いはスモモだった。
だが、クコは果敢に剣を抜いて、ヨセファに立ち向かう。
「スモモさん、下がってください」
「うん、ありがとっ」
助けに来たのに、あっさりスモモは下がった。それを気にするクコではなく、ヨセファの魔法について考えている。
――素手のまま来ています。剣を相手にひるまず、自ら仕掛けてくるほどの体術と魔法を持っているということですよね。一切の油断なくいきます!
クコが斬りかかる。
「やああああ!」
「剣の振りが、大きいですヨ」
するりと、ヨセファは身をかがめて剣をよけつつ、クコの背中側に回り込んでしまった。
意外と素早い。
反応の早いクコが背後の気配に気づき振り向きざまに剣を振り回そうとするが、ヨセファはそれを上回る速度でクコの背中に手を伸ばしていた。
――速い!
背中に一撃をくらうことは必定。
スモモが予想外なヨセファの動きのよさに驚く中、クコが思ってもみなかった動きをしてみせた。
クコの鋭い剣撃が、ヨセファの持つ巨大な十字架に当たり、キンと高い音を鳴らした。
そのあとだった。
クコの背中に手を伸ばしたはずのヨセファだが、十字架に引っ張られるように動きが制限され、手が届かない。
「やああっ!」
パワフルに剣を振ると、剣に十字架がピッタリくっついたまま振り回され、ヨセファまでもが振り回されてしまった。
「どうして、十字架が離れないのですか! おかしいですヨ!」
「《スーパーグリップ》です! 剣と十字架の間に強力な摩擦が発生しているので、離れないんです! そして、《パワーグリップ》で剣を握る力も強めているので、こうして振り回せますっ!」
十字架を抱えたまま遠心力で振り回されるヨセファが、クコの大きな剣の振りで高く持ち上げられた。
そして。
振りかぶって、
「やああああっ!」
斜め四十五度に向けられた剣先から、十字架が離れ、ヨセファが十字架ごと飛ばされてしまった。
「お見事、クコちゃん。やるなあ」
スモモは感心した。
――思ったよりおもしろい魔法だね。見たところ、クコちゃんは接近戦が得意。対して、相手もすぐに懐に飛び込んだようなバトルスタイルから近接型と読める。あとは魔法の相性次第。気をつけてね。
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