42 『フィンガーチェンジ』
スモモは思案する。
――殺傷能力のある攻撃はなさげだから、このシスターを倒すだけなら問題ない。でも、ただ倒しただけだとクコちゃんがこのままなのかが不明なんだよね。
魔法には、術者が気を失ったり死亡したりすると、その効果がなくなるものがある。反対に、半永久的に続くものや、時間制限で効果を持続するものもあるのだ。
――あと、あの十字架。おそらく、魔法の発動には関係ない。それに、クコちゃんの性格がまた変わったりわたしを襲ってこないことから、一度魔法が発動したあとに性格を変更したりコントロールする力はない。
それを警戒していたスモモだが、その点は大丈夫みたいだ。
――あとは、特定の性質を弱めたり消したりもできるってことだけど……性格的な部分ではない性質に関与できるとすれば、あの十字架への警戒は緩められないかな。
腰に片手を当てたまま、スモモは余裕そうにしている。
だが、内心ではまだまだ考えることを強いられてしまっている。
――もし、腕力という性質を高める催眠や能力開発のような力があれば、結構厄介なんだよね。あとは魔力とかさ。コントロールする対象にだけ十字架を使うんじゃなくて、自分用に持っていました、とかありそうじゃん? さすがに幹部ってだけあって、ほんと面倒なやつ。で、こっちの戦術だけど……。
スモモはクコを一瞥して、
「しょうがない。クコちゃんも、この状態よりマシでしょ」
――またシスターにクコちゃんの性格を変えてもらうとするか。
ずっとうずくまって恥ずかしがっているより、熱血漢や泣き虫のほうがまだ動けるように思う。
ヨセファはスモモを狙って動き出しているし、スモモも対抗策を導き出す。
「あなたには恥ずかしがり屋なんかじゃなく、もっとおもしろいことにしてあげますヨ」
ぱっとヨセファが階段を飛び降りたとき、スモモはちょっと思い直す。
「おもしろいこと? あれ、やめたほうがよかったかな……?」
苦笑いでスモモがクコに歩み寄る。
闘牛のようにまっすぐスモモに向かってくるヨセファ。
「もう遅いのですヨ!」
「だよねえ」
頬をかくスモモに、ヨセファが人差し指を突き出す。
スモモはぐっと手を伸ばし、クコの腕をつかんだ。
「え? なにばすんだが?」
「ごめんね、クコちゃん」
と言って、スモモはクコをヨセファに突き出す。
「《
そのとき、ヨセファの親指がクコの左胸部にめり込んだ。鎖骨よりやや低いくらいのポイントだろうか。
「し、しまった! 調整が変わってしまったのですヨ!」
「よし、クコちゃん元に戻れ!」
スモモはある期待をしていた。
恥ずかしがってうずくまるしかできないよりも、怖がりや寂しがりでも動ければ今よりいい。熱血漢だったらこの戦いの最中なら悪くない。だが、元に戻る可能性もあるはずだと思ったのだ。
結果は、ヨセファのリアクションより先に、クコの変化でわかることになる。
クコは目の前にいるヨセファを見て、
「うー?」
と幼い声を出した。
それからスモモを振り返る。
「きゃっきゃ」
天真爛漫に笑い出したのである。
スモモは目を大きくした。
「へ? 赤ちゃんになっちゃった?」
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