32 『シークレットデータ』
この魔法世界において、魔法に関する情報価値は極めて高い。
ある意味ではサツキの世界での個人情報以上とも言える。
魔法を知られることで命の危機があるのはもちろん、たとえば新戦国の世では命以上に己の国に尽くすのが美徳とされることもあるがゆえに、魔法の情報一つ知られることで国家そのものを破滅されられる危険さえはらんでいる。
今でいえば、サンティの魔法の利用価値次第で、マノーラの街そのものがパニックになる可能性だってあるのだ。
だから、サツキも普通はそれほど大事な魔法に関する情報を聞いたりしない。しかしこの状況では別だった。
そして、アシュリーは教えてくれると言った。
「ありがとうございます。簡潔にお願いします」
アシュリーはサツキを全面的に信頼しているから、正直に答えていった。
「お兄ちゃんの魔法は、空気中の水分を凍らせる魔法陣を描けるものだよ。剣にも魔法陣が描いてあって、それで斬ったものを凍らせられるの。でも、描く魔法陣も直径で一メートル以内くらいまでしか効果を出せない、だったかな」
「なるほど」
サツキは考えをまとめる。
「ほかに、聞きたいことある? サツキくん」
「いいえ。アシュリーさん、今は追うのは控えましょう。サンティさんはおそらく危険な目に遭うことはありません」
「え、どういうこと?」
「元々、サンティさんは町の襲撃に駆り出されました。しかも単独で。本人の思考力もそれほどハッキリしていないことは、さっきの戦いで見えた。それなのに、単独で士衛組や『
「また、操られちゃうの?」
それでも大丈夫なのか、と言いたそうにアシュリーはサツキを見る。
「単純な指令をこなす程度に。この魔法の操作精度を考えると、本人への負荷は小さいでしょう。また、サンティさんの相手をするのは、情報交換がされている俺たち士衛組や『
「そ、そっか。一旦、安心してもいいんだよね?」
まだ不安は拭いきれないでいるアシュリーに、サツキはしかと答えた。
「はい。俺たちを信じてください。逆に、今追えば二対一で人質としてサンティさんもいる。それを相手にサンティさんを取り返すのは難しいです。態勢を整えましょう」
サツキとしては、ここで追うことでサンティを人質にされて、サンティが傷つけられるほうが嫌だった。このあとも危険なことにならないのなら、今は見送るほうがいい。
「わかった。わたし、サツキくんを信じるよ。ううん、もうとっくに信頼はしてるの。あんなお兄ちゃんを見たから、ちょっと、不安になっただけ」
いろんな感情で困惑しているアシュリーだが、それでもなんとか微苦笑を浮かべてみせるのだった。
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