33 『ライトサイン』
アシュリーが聞いた。
「ねえ、サツキくん。空間同士の入れ替えって、ここのほかにも起こっているの?」
「はい。マノーラの街中で」
「じゃあ、お兄ちゃんにはまた急に会えるかもしれないんだね」
「そうですね。俺はさっきまで、士衛組の仲間といっしょでした。でも、離れてしまいました。だから、アシュリーさん。なるべく俺の近くにいてください」
「わかったよ。わたしもサツキくんが心配だし、離れたくないから」
「はい」
混乱するマノーラの街で、サツキが最初に巡り会えたのがアシュリーだったのは幸運だといえる。
やっと会えた兄に襲われたのは偶然の重なりがあったといえ不運だったが、アシュリーを一人にしないで済んだことに、サツキはホッとする。
このあとも、ここいるマノーラ騎士団数人に任せるより自分がついていたほうがよいと判断し、サツキはアシュリーと行動を共にすることにした。
今度こそは、リラのときみたいに離れ離れにならないようにしなければならない。
サツキはマノーラ騎士団の元へと歩いて行き、
「俺たちはまた通りを歩いて仲間との合流を目指します。引き続き、町の人たちをよろしくお願います」
「わかっております。また同じ過ちはしないよう、精一杯努めます」
その後、サツキはアシュリーと通りを進んでいった。
歩き出してすぐ、サツキは話し出した。
「空間の入れ替えがあるのは、マノーラの中心部で多いみたいです。つまり、抗争も中心部で勃発することになります。中心部から外れれば安全かもしれませんが、アシュリーさんを中心の外に連れて行けるのは、本当に信頼できる人に出会ってからです。すみませんがそれまではいっしょに……」
サツキの言葉を遮って、アシュリーが言った。
「サツキくん、わたし、お兄ちゃんが元に戻るまでいっしょにいる。足手まといなのはわかってるけど、サツキくんの力になりたいの。これはサツキくんだけの問題でも、わたしだけの問題でもないんだよ?」
「そうでしたね。はい、頼りにしてます」
やや表情をゆるめたサツキに、アシュリーはめずらしく訝しげな目をして、
「本当に頼りにしてる? わたしだって、ちょっとなら魔法も使えるんだよ。あんまり、戦いには向いてないけど」
「そうだったんですか?」
驚くサツキに、アシュリーは得意げに教える。
「《
と、アシュリーは空中に人差し指でハートマークを描いた。
――ネオンサインみたいだ。
浮かび上がるまでに一秒、消えるまでたったの五秒だった。
だが、サツキにはアシュリーの指先に魔力が宿りハートマークを描き出したところで、すでに視認できた。《緋色ノ魔眼》は魔力を可視化できるからだ。
「もしかしたら、混乱するこのマノーラの街で、だれかにサインを送るのに使えるかもしれません」
「だったらいいな。もし必要なら言ってね。大がかりな使い方じゃなければ、全然疲れないから」
「はい。じゃあさっそく」
アシュリーに文字を書くように頼んだ。
「なんて書けばいいの?」
「サヴェッリ・ファミリーがマノーラの街を襲撃中。標的は『
「仲間への連絡に使うんじゃないんだ」
「まずは、町の混乱を最小限にするのが大事です。俺たちはこれから、通りを歩き回って敵のボスの居場所の情報を探しながら、町中にこのサインを書いて回りましょう」
「わかった」
「そのうち、だれかと合流できるはずです」
「うん、そうだね」
このあと、アシュリーはすぐに《
すると、ここでサツキに声がかかる。
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