34 『ゲットバック』
「サツキ殿」
呼ばれて、サツキは相手がだれか即理解した。
姿は見えないが、サツキにはどこにいるのかわかる。サツキの影の中だ。
「なにかね?」
「はっ。サヴェッリ・ファミリーから、サンティ殿を回収したゆえ、報告するでござる」
「助かる。ありがとう」
「拙者もすぐに動けていればよかったのでござるが、ほかの場所でもマフィアたちが襲撃を始めており」
フウサイは影分身を四方に放って情報を集めていることだろう。
――普段のフウサイなら敵が姿を消す前に捕らえ、サンティさんを奪還することができたはず。おそらく、さっきは士衛組の監察として、各地を見ていたところ、マフィアに襲われた一般市民を見つけてつい助けに入った。だから影分身のほうに集中してしまい、サンティさんの救助が遅れた、といったところか。
とサツキは思った。
「仕方ないさ。フウサイが見ている範囲はかなり広いからな。動くのは肝心な時だけで大丈夫だ。士衛組やほかの味方、一般市民についても基本的に手出し無用でいいが、危険なときは助けに入ってあげて欲しい」
「御意」
「ほかのみんなは?」
「変わりなく。リラ殿は依然不明、町全体に放った影分身の視界には、チナミ殿とナズナ殿が今も共におり、敵との接触はなし。クコ殿らも姿は発見できず。ただ、鷹不二水軍の一軍艦から数名を確認。中でも、オウシ殿はたったひとりでぼんやり立ち尽くしている模様。以上でござる」
「鷹不二水軍か。オウシさんがひとり。あの人には付き人がいるのが普通だと思うけど、もしかしたらだれかとはぐれたか。わかった、ありがとうフウサイ。チナミとナズナのことも頼む」
「はっ」
会話が終わって、アシュリーも文字を書き終える。会話中、何度もサツキのほうをチラチラうかがっていたが、改めて問うた。
「ねえ、サツキくん。今のは? 通信魔法?」
「いいえ。姿を隠すのに長けた仲間がそばにいるだけです」
「す、すごいね。わたしにはなにも見えないよ」
「見えたら忍者失格です」
と、サツキは苦笑した。
「忍者? 忍者って、本当にいたんだ……」
アシュリーは驚いている。
忍者は
士衛組の監察・
「あっ、それより、お兄ちゃんを回収したって……」
「取り返してくれたみたいです」
「すごいんだね、その忍者の人」
「はい。本当に。ただ、今は影分身をいくつもつくって町中を偵察してもらっています。だから、複数の視野を持ってそれを切り替えている状態なので、動きが取りづらいんです」
影分身は、一つの頭脳で複数の身体と視野をコントロールする必要がある。普通の忍者は影分身を二体創れて、実力者でも五体がいいところなのに、フウサイは百体出せる。ただし、本体の視界にある範囲ではそれらをすべて動かせるが、まったく別々の場所で影分身も動かすのはかなりの技術を要する。今のような場合、偵察部隊も十体程度がいいところだ。頭を動かさずに、視界の端から端まで十個くらいのモニターがバラバラに設置された状態で、それぞれの画面を把握し、それらに映った複数のアバターを指先で操作するだけでも大変なことを思えば、フウサイの業が人間離れしていることがわかるだろう。
「それもあってサンティさんを取り返す手助けを要請できませんでしたが、ほかの分身体を動かさない状態であれば、一人でも取り返せたみたいです」
「あ、ありがとうございます。忍者さん」
アシュリーはサツキの影に向かってお礼を述べた。
「さて。じゃあ、サンティさんを……」
「きゃっ!」
と、アシュリーがサツキにくっつく。
また、前触れもなく、空間の入れ替えが発生してしまった。
幸い、アシュリーは離れないようサツキの肩に手をやっていたおかげで、離れ離れにならずに済んだ。しかし、サンティのいるであろうエリアとは分割されてしまった。
「サンティさんのことは、マノーラ騎士団に任せましょう」
「そうだね。サツキくん、わたしたちはわたしたちのやるべきことをやっていこう?」
「はい」
もうアシュリーはサンティが側にいなくても、精神的に大丈夫になったみたいだった。それ以上に、自分にできることをしていって、事件の真の解決をしようとしている。
――せっかくサツキくんに頼られたんだもん、わたしが頑張らないと! そうすれば、事件が本当の意味で解決して、お兄ちゃんも安心できるようになるもんね。
サツキとアシュリーが行動を開始してゆく中、士衛組の面々もそれぞれに動きがあった。
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