35 『ロストチャイルド』

 おとなずなは、一人でマノーラの街を歩いていた。


「チナミちゃん、どこに……いるんだろう?」


 頭をキョロキョロさせて、


「それに……ここ……どこ?」


 不安な気持ちで、現在の状況を整理してみる。


 ――えっと、さっきまでチナミちゃんといっしょだったのに、急に、チナミちゃんがどこかに消えちゃった……。そのとき、景色もいっしょに消えちゃって……ええと、だから、場所ごと全部がなくなっちゃったんだよね。でも、別の場所と、そこにいた人が現れて……つまり、だれかの魔法で、どこかとどこかが、交換されちゃった……のかな?


 同じ士衛組参番隊で幼馴染のかわなみと別れたのは、わずか三分程前のことだった。

 最初は混乱したが、心を落ち着かせて、ナズナは歩きながら考えていた。


 ――……だったら、どこかで、また会えるかも。そうだっ、空から様子を見てみよう。


 背中の翼をパタパタと羽ばたかせ、ナズナはふわっと飛んでいった。

 ナズナには、《てん使はね》という魔法がある。

 白い翼を動かすことで、飛行可能となる。翼は見た目や材質はぬいぐるみのような感じなのだが、創造力がナズナのそれを本物の翼として空を飛ばせてくれるのだ。


 ――サツキさんなら、きっと、なにが起こっているか考える。わたしが側にいたら、空を飛んで様子を見てきてって言うはず。わたしも、知りたい。なんで、町に魔法がかかっちゃったのかを……!


 正義の味方である士衛組としての使命感からか、サツキのことを考えたからか、ナズナは一人でも自分で考えて行動できるようになっていた。

 さっそく、空を飛んで町を見渡せる上空にやってくると、町全体がおかしいと気づいた。

 そこでわかったのは、次のようなことだった。


 ――町が、ブロックを並べたみたいに、区切られてる……? チナミちゃんがよく将棋をするけど、あの盤面といっしょで、四角の区分けがあって……綺麗に切り抜かれたように、町の一部が入れ替わってるみたい。


 明らかに景観と調和しない区画があり、それも別の場所と入れ替えれば元々の景色に戻るように思うのだ。


 ――でも、なんでこんなこと、するんだろう?


 ナズナは、まだマフィアにもアルブレア王国騎士にも遭遇していない。

 だから、これがマフィアたちによる襲撃であることに気づけなかった。

 遠くが少し騒がしい気がするものの、なにか物騒なことが始まったとはわからない。

 が。

 そのとき、ナズナは通りに女の子を発見した。

 女の子は六歳くらい、一人っきりで頭をキョロキョロさせていた。さっきのナズナのように、異変には気づいているが、なにが起こったのかはわかっていない、といったところだろう。

 不安げな面差しの女の子が自分と重なって、ナズナは声をかけることにした。

 もっと高くまで上昇して町を観察すれば、チナミの姿を発見したり、ほかにもなにか見つけられるかもしれない。しかしあの女の子のことが放っておけなかった。

 女の子のいるほうへと飛んで行き、そっと声をかける。


「あ、あの。どうしたの? 迷子かな?」


 ナズナの声に、女の子は周囲を見回して、首を上に向けた。


「え! 飛んでる!」

「驚かせてごめんね。これは、魔法だよ」

「すごいね。まだ小さいのに、魔法使えるんだ」


 自分よりもずっと小さい子に小さいと言われるが、ナズナはこれでも十一歳。今度の誕生日で十二歳だから、この女の子よりずっとお姉さんなのだ。


「ねえ。お母さんやお父さんは? お兄さんとかお姉さんは、近くにいるかな?」

「ううん。あたし、みんなとかくれんぼしてたんだけど、なんだか急に遠くにきちゃったみたいなの」

「そっか」


 つまり、迷子になってしまったということだ。

 急に、ということからも、魔法の影響であることが予想される。ナズナは言葉の端まで分析しなかったが、この子が迷子なら自分の出番だと思った。


 ――士衛組は、正義の味方、だもんね……! わたしが、この子を安心させてあげよう。


 かくして、ナズナに小さな連れができたのだった。

 そんなナズナにリディオからの通信が来るのはまもなくのことである。

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