36 『インフォメーションエクスチェンジ』

 ナズナの頭の中に、リディオの声が聞こえてくる。


『聞こえるか? ナズナ姉ちゃん』

「あ、あれ? リディオ、くん?」

『おう! そうだぞ! 今、みんなに連絡してるんだ。ASTRAアストラとマノーラ騎士団は終わって、士衛組はサツキ兄ちゃん、リラ姉ちゃん、ミナト兄ちゃん、クコ姉ちゃん、ルカ姉ちゃんって順番に情報を共有してるところだ』

「や、やっぱり、なにか……あったんだね」

『そうなんだ。マノーラの街では、空間の入れ替えが起こってる』

「うん」

『驚いてないみたいだな。知ってたのか? ナズナ姉ちゃん』

「えっと……さっき、空を飛んで、見たから」

『そっか! さすがだぞ! どんな感じになってるかわかるか? 情報が欲しくてさ』


 リディオは『ASTRAアストラ』の情報局を担う情報官であり、相方のラファエルと共に『ASTRAアストラ情報局』として知られる。『ASTRA Intelligence Service』の略だ。

ASTRAアストラ』内部ではインテリジェンスサービスを略して『ISコンビ』で通っている。リディオが技術部として情報通信を行い、ラファエルが保安部として管理をしているのである。

 だから、リディオは情報が欲しいのだ。


「全部、将棋の盤面みたいに、四角で区切られてるの……。それで、広くて範囲はわからないけど、わたしのいるところからは……半径で、五キロ以上は、ありそう、だよ」

『四角で区切られてるのか。そして、少なくとも半径五キロ以上はある。なるほどな。助かる情報ありがとうな! 確か、今チナミ姉ちゃんといるんだよな?』

「あの……今は、チナミちゃんと、はぐれちゃって……一人になって、迷子の女の子と、いっしょ」

『迷子?』

「うん。その子を、おうちに送り届けて、あげたいの」

『そっか! わかったぞ! あとでサツキ兄ちゃんとチナミ姉ちゃんには報告しておくからな』

「あ、ありがとう。リディオくん」

『でも、気をつけるんだぞ。今、町にはサヴェッリ・ファミリーっていうマフィアが来てる。そいつらがアルブレア王国騎士と手を組んで、町で暴れてるんだ。狙いは士衛組とASTRAアストラで、マノーラ騎士団もついでにって感じだな』

「わたしたち……?」

『詳しく話す時間はないけど、簡単に言えばASTRAアストラとサヴェッリ・ファミリーはマノーラの街の裏の自治権をかけて争う間柄で、そのASTRAアストラと士衛組が手を組んだから士衛組も狙われてるんだ。ナズナ姉ちゃんはその点だけ知っておけばいいかも』

「う、うん」

『とにかく、そういうことだからなるべくそいつらに見つからないようにな。それと、ASTRAアストラとマノーラ騎士団のことはどんどん頼ってくれ』

「わ、わかったよ。あと、チナミちゃんには、わたしは大丈夫って、伝えてくれる?」

『おう。任せてくれ。またあとでなにかあったら連絡する』


 そこで、リディオとの通信が終わった。ずっとその様子を見ていた迷子の女の子は、首をかしげて聞いた。


「だれと、お話してたの?」

「魔法でね、わたしの仲間……の組織、の人だよ」

「ん?」


 ピンとこない女の子に、ナズナは優しく微笑みかける。


「今、町中がいろいろ起こって大変みたいなの。でも、わたしがいるから大丈夫だからね」

「うん。あっ、お姉ちゃん、お名前は? あたし、ロレッタ。夏付合露玲多カプア・ロレッタだよ」

「ロレッタちゃんっていうんだね。わたしは、おとなずな……だよ。ロレッタちゃんのことは、おうちに送り届けてあげるからね」

「ありがとう! ナズナお姉ちゃん」


 ふふ、とナズナは笑顔でうなずく。


 ――さっきから、お姉ちゃんって、ロレッタちゃんやリディオくんに言われて、こそばゆいな……。わたしもお姉ちゃんなんだし、がんばるぞ。


 その頃、すでにリディオと情報共有をしたクコは、ここで意外な人物と再会することになった。

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