31 『チェイスオアステイ』

 マノーラ騎士団がサツキの指示に従いサンティを安全な場所へと運ぼうとしているのを見て、アシュリーはつぶやく。


「お兄ちゃん、大丈夫かな……」

「マフィアに操られていたようだったので、それは解除済みです。あとは体力が回復すれば大丈夫でしょう。じきに目覚めると思います」

「解除? どうやって……あ、そっか。サツキくんの手袋は、触れたら魔法を解除できるんだったね」

「はい。サンティさんの身体は、まがまがしい魔力で薄く覆われていました。それがおそらく、他者を操る魔法です」


 魔力を可視化できる目、《いろがん》をサツキは持っている。その上、ロメオにもらった《打ち消す手套マジックグローブ》は、触れることで魔法効果を解除できる。先程は掌底と同時に解除した。

 だが、サツキはサンティにかけられていた魔法の正確な情報まではわからなかった。


 ――できれば、どんな条件でどれほどの精度で他者をコントロールできる魔法なのか……それを知りたかったが、まずサンティさんが無事だとわかっただけでも収穫だ。


 アシュリーが質問した。


「お兄ちゃんを利用していたのは、マフィアって話だったよね?」

「はい。サヴェッリ・ファミリーといって、カシリア島の……」


 と、話していたときだった。

 別の刺客が襲撃してきた。

 刺客は二人。

 咄嗟に、サツキはアシュリーを守るために構えを取った。

 しかし、刺客の狙いは違った。


「そっちか!」


 刺客二人組は、一人がマノーラ騎士団を攻撃、もう一人がサンティを攫っていってしまったのである。


「やられた……」


 マノーラ騎士団を攻撃した刺客も、ヒットアンドアウェイで逃げてゆく。


「お兄ちゃんがっ」


 追いかけようとするアシュリーの手首をつかむサツキ。

 アシュリーは、サツキを振り返ると、すぐに冷静になった。力が抜ける。


「わ、わたし……」

「少し、考えさせてください」

「うん」


 と、アシュリーはうなずく。

 サツキは逃げる刺客を見ながら、思考を巡らせる。


 ――ここで考えるべきことは二点ある。


 追いかけるかはそのあとで判断すればよいことなのだ。


 ――一つ目、サンティさんになにができるのか。気絶したサンティさんを回収したのは、マフィアたちにとってサンティさんはまだ利用価値がある、ということを意味する。いったい、どう利用する狙いがあるのか……。サンティさんの魔法について、アシュリーさんに聞いておくべきだな。


 サツキはチラとアシュリーを見る。


 ――二つ目、アシュリーさんをどうするかだ。アシュリーさんはマノーラ騎士団に任せてもよかったはずだった。そのほうが安全だから、そうしようと思っていた。だが、サンティさんがまた攫われてしまった以上、アシュリーさんはきっと不安で気が気でない。マノーラ騎士団ならだれにでも任せられるわけじゃないことも、今の襲撃を見てわかった。


 アシュリーは、サツキがいろいろと考えているのを待っていた。だが、質問せずにはいられなかった。


「追いかけなくて、いいの?」

「これからどうすべきかを考えていたので、まずは教えてもらえますか」

「なにを?」

「サンティさんの魔法についてです。大切な個人情報なので、話したくないと思いますが、これによって追いかけるか判断が変わります」


 アシュリーは力強く答えた。


「もちろん、答えるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る