25 『レイドマフィア』

 士衛組の基本行動は、各隊による連携を主としていた。

 だが、局長のサツキと副長のクコ、そして参謀のルカを合わせた士衛組の司令部たる司令隊は、現在局長のサツキを欠いていた。

 クコとルカは、修業中どこかへ飛ばされてしまった。

みやこ』マノーラは、優雅で穏やかな普段の空気にヒビが入ったようにざわつき始めている。

 道端でマンドリンを演奏する帽子の人は音楽を奏で続けるが、道行く人々や店先の人たちまで異変に気づき困惑していた。

 そんな中、クコは背後に敵を感知した。


「アルブレア王国騎士……? いえ、違うようですが、わたしたちの敵のようですね」

「みたいね。人数は二人だけ」


 ルカが手のひらを相手に向けようとしたところで、声がかかる。


「マフィアがマノーラを襲撃してきている~」


 歌に乗せてそんな情報が飛び出し、クコはその意外性に目をぱちくりさせた。


「そうなのですか?」

「あなたは、『ASTRAアストラ』の方ですね?」


 ルカの問いに、マンドリン奏者はリズミカルに答える。


「その通り~」

「リディオの魔法で報されたのかはわからないけど、信じていいと思うわ」

「そうですね」


 クコはうなずいた。


「『ISコンビ』はいっしょ~、レオーネさんとロメオさんはそれぞれ別行動中~、アルブレア王国騎士もマフィアと組んで攻撃を仕掛けてきている~」


 マンドリン奏者はそんなことまで教えてくれた。帽子で目元が隠れているし

口元はヒゲで隠れているので怪しさはあるのだが、不思議とルカも信用できるように感じた。


「ありがとうございます」


 今度こそ敵を攻撃しようとしたところで、マンドリン奏者は言った。


「ここはお任せあれ~」

「はい!」


 再度、クコはうなずいた。

 クコはルカの手を取って走り出す。

 どうするのが正解なのか、ルカが考える間もなく、二人はその場から離れて行った。

 敵が見えなくなったところで、ルカは言った。


「ちょっと、クコ。さっきの場面、士衛組の名を売る機会チャンスだったかもしれないわ。相手も強くなさそうだった」

「そうかもしれません。でも、あの人がお任せあれと言ったんです。別の場所になにかあるんです」

「確かに、その可能性もあるけれど」

「そして、敵は思いのほか多いのかもしれません」

「……そうね」

「この町が混乱状態の中、士衛組の名を知ってもらう活躍をするのは簡単ではありません。わたしたちが名乗るような時だけです。だから、今はだれかと合流すること、主犯格の相手を探すこと。この二つを優先すべきです」


 ルカは小さく微笑んだ。


「クコ、逞しくなったわね。判断も冷静だわ」

「あ、ありがとうございますっ」

「でも、主犯格がだれかわかるの?」

「いいえ、わかりません」

「私には、思いつく相手がないでもないわ」

「だれですか?」

「マフィアよ。宗教側と手を組んだ彼らが仕掛けたと思われる」

「宗教側というと、地動説反対派の?」

「ええ。背景に、明日の裁判が考えられる。サツキは先生や『ASTRAアストラ』と協力して、裁判官たちが宗教側に買収されないよう手を回していたわ。その宗教側に、マフィアとのつながりがあるらしいの。相手がマフィアだから、詳しいことは知らない。『ASTRAアストラ』に任せて欲しいとのことだった」


 秘密組織『ASTRAアストラ』は、アンダーグラウンドな世界にも顔を持っており、元々マノーラを牛耳る悪いマフィアとも戦った過去がある。ほかの土地を統べるマフィアとの抗争だって幾度もしてきたらしい。

 つまり、今回マノーラを襲撃してきたマフィアが『ASTRAアストラ』を敵視している可能性は高いと言える。


「じゃあ、そのマフィアが今回の相手ですか」

「ええ」

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