24 『リプライ』

 スサノオはキッとリョウメイを見据える。


「無駄口はよい」

「少々、先の話をしすぎましたなぁ。そうした余話は今から始まる舞台劇にはまるで関係ありませんが。そんなわけで、そもそも、その『鳳雛』、敵さんとは組むがうちらと敵対せずに済むかもしれへん。それゆえ、この機会に恩の一つ二つは売っておかなもったいない思いましてな。できれば、スサノオはんもミナトはんとは敵対したくないやろうし」

「決まったな。鮮やかな色彩を現出させたこのマノーラの舞台に、舞わぬは風雅にあらず」

「?」


 まだ理解しきれずリラが疑問符を頭に浮かべていると、スサノオは言葉を続けた。


「余はうすすさのお、ミナトが絡むようなら手伝わぬわけには参るまい」

「ありがとうございます!」


 リラは頭を下げた。

 リョウメイが薄い微笑を浮かべ、


「よかったなあ、リラはん」

「はい!」

「ただ、さっきのうちらのおしゃべりは聞かなかったことにしといておくれやす。まだ先のことやねんか」

「わかりました」

「あと、これだけは覚えておいて欲しいねんけど……うちらはリラはんたちに敵対せえへんつもりやし、仲良うやりたいねん。未来がどうなるかはわからへんけど、よろしくお頼み申しあげます」

「こちらこそ、どうぞよろしくお願います」


 リョウメイがニコリとうなずき、スサノオに呼びかけた。


「さて。参りましょうか」

「乱闘の歌は未だ風を編むばかり。しかし、余の通る道に、敵の咲き乱れること近し」


 またリラが理解できずにリョウメイを見ると、リョウメイはもう説明もしないでニヤニヤするばかりだった。


「ゆくぞ、皆の者! 余は華やかな芸術を好む。やるなら派手なほうがいい」




 突発的にいくつもの空間入れ替えが起こったマノーラ。

 リラたちが動き出した一方で、クコは各隊の隊長と連絡を取ろうとしていた。

 クコには《精神感応ハンド・コネクト》の魔法がある。

 その魔法は、手をつなぐとその相手と声を出さずとも会話できるというもので、玄内が発明したイヤホン型の装置を使うことで、クコからはその装置に離れていても声を届けることができる。

 つまり、通信装置になっているのだが、相手側からの発信ではクコに連絡できない欠点があり、装置も装着していないと使用できない。

 今、クコはだれにも声が届けられていない状態だった。


「どうだった? クコ」


 ルカに聞かれて、クコは頭を振った。


「いいえ。つながりませんでした……」

「仕方ないわ。また少し時間を置いて試してみましょう」

「はい」


 クコは改めて周囲を見回す。


 ――急に世界が切り取られてしまったようなかっこうになっていますね。ロマンスジーノ城のお庭でルカさんと修業していたのに、突然、お庭の一部と共にどこかに飛ばされてしまいました。もしかしたら、ほかのみなさんも同じような状況なのかもしれないと思ったのですが、連絡がつかないとなにもわかりませんね。


 幸い、クコはルカといっしょにいられる。

 それだけが救いだった。


「やっぱり、町の中に行ってしまったのでしょうか」

「建物や太陽の位置を見ると、動いたのは私たちのようね。もっとも、目の前にある景色も別の空間から入れ替えられたものである可能性も考えられるけれど」

「リラやミナトさんたちとも連絡がつきませんし、玄内先生からも応答がありません。みなさん、大丈夫でしょうか。サツキ様も危険な目に遭っていなければよいのですが……」


 この場から離れて動き出すか、とどまっておくべきか。

 クコはあまり悩まなかった。

 異変が起きているのなら、動かずにはいられない。


「ルカさん。とにかく、みなさんと合流しましょう」

「ええ」


 しかし、ルカは語を継ぐ。


「そうしたいのは山々だけど、それも許してもらえないみたいね」


 クコが背後に気配を感じて振り返る。


「あれは……」

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