23 『サイドノート』

 リョウメイはじぃっとスサノオの目を瞠り、


「鳳凰となる才。言わば『ほうすう』。まだ雛やけど、ヘタすればあと一年と経たずにその才能は羽化する。そして、うちの占いではこの雛が敵さんと組むことになる」

「敵、つまり鷹不二氏と、ですか」


 ゲンザブロウに、「せや」とリョウメイは返す。


「うちか鷹不二氏か、確率的には八二ぃで鷹不二氏どす。あの鷹不二桜士が『臥龍』と『鳳雛』を従えたら、うちやゲンザブロウはんでもさすがに手に負えんわ。『麒麟児』までおることやしなあ」

「それでもやるのが、『軍監』である貴様の仕事ぞ」


 あくまでリョウメイを信用し冷然と言うスサノオ。

 だが、リョウメイはサツキをよく知っていた。特にその才覚については、本人以上に見抜いている。


 ――それだけならまだしも、ついでに新戦国最高の陽性たる『たいようもう』っちゅうさるまで意気揚々と騒ぎ出すことになるんやで。


 この『太陽の申し子』は、名をわたりきみよしという。

 実は、リラはこのキミヨシと旅を共にした間柄であり、キミヨシはすでにアルブレア王国へと渡っていた。そこで留学をするのだ。キミヨシには分身体を創れる魔法で世界各地の情報を集め、旅と留学の経験と莫大な情報と自らの知恵を、旧友のオウシに売り込む狙いがある。そこで出世を夢見るキミヨシが頭角を現すのは時間の問題といえた。むろん、リョウメイにはそれほど詳しいことはわからないが、『太陽の申し子』が世間に風を吹かせるのは占いで視えることだった。

 それすなわち、キミヨシとオウシの再会もまた、近いということでもあった。

 しかしその点については口にせず、リョウメイは言葉を返す。


「そこで、『鳳雛』に恩を売っておくんどす。東北では『はくぜんろう』が『どくがんりゅう』をビシバシ鍛えとる。あのへそ曲がりの独眼、『鳳雛』と同い年でしたなあ。つまり、第三勢力まで出てくるわけどす。そんなわけで、うちも『おうりゅう』くらいを取らな厳しそうや思ってたところで。そろそろ、あそこの国主も倒れることやしなあ」


 総軍の司令を兼ねた最高参謀府を担う相棒が必要だと強く感じるリョウメイである。

 それには、『万能の天才』と同世代の隻眼の軍師、『応龍』が欲しい。彼が今仕えるしんくにはじきに国主が倒れると占星術で読めているし、そうなれば新陳代謝を好み新体制を敷こうとする若き当主は老いた『応龍』を煙たがり、当代の名軍師も居場所がなくなり世間に売りに出される。買い手がどれほどつくか、本人の意思はどうか、まだわからない。

 しかしもし迎え入れられれば。


「老いた『応龍』は年を経るごとに遠謀を増すと占うことができるし、うちの相棒になるばかりでなく、うち自身の先生ともなってくれようというわけどす。『万能の天才』の抑止力は必須。その上、豊富な経験値で士衛組と距離を保つすべを示してくれはる。さすれば、『鳳雛』との正面衝突は避けられるかと」

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