18 『オールドフレンド』

 サツキとリラが庭園に迷い込んだその頃。

 マノーラのとある公園では、ミナト、リディオ、ラファエル、アキとエミという五人が、子供たちの遊び相手をしていた。

 もっとも、ラファエルを除いた四人はしっかりと自分たちも楽しんでいるから立派なものである。

 ラファエルは苦笑を浮かべて、


「本当に世話好きというか、面倒見がよいというか。だから子供たちにも慕われるんだろうな。この人たちは」


 と思った。


「さて。時間になったし探すか」


 遊びは、かくれんぼ。

 鬼になったラファエルは、時間を数え終えて探し始めた。


「どこにいるかなー」


 子供の影が見えるが、見なかったことにする。代わりに、木の上に目を走らせる。


「リディオ、みっけ」

「見つかったー! ラファエル、見つけるの早いぞ」

「わかりやすいんだよ、リディオは。次はリディオが鬼ね」

「おう! じゃあ、ほかのみんなを探さないとだな」

「アキさんとエミさんはスペック高いのに子供以上に全力だから、本気出さないと……」


 やや呆れたようなラファエルに比べて、リディオは楽しそうに、


「あの二人を探すのだけは、おれも手伝うぞ!」

「頼むよ。じゃないと日が暮れる」


 とラファエルは肩をすくめた。


 ――それを思うと、ミナトさんは適度に手を抜いて遊んでくれるからホント助かるな。



 そのミナトは。

 どこに隠れようか迷って歩き回っていると、ラファエルが探し始める時間になってしまった。

 そこで、ミナトのことを気に入っている六歳の女の子ロレッタが手を引いた。


「こっちだよ。見つからないよ」


 楽しそうに手を引いて、広い公園の中を進んでゆく。


「そんなところがあるのかい?」

「うん」


 ロレッタが自信満々に連れて来たのは、花畑だった。この時期に咲く花に囲まれて、小さい子供が隠れるには充分な茂みである。

 近くにはベンチもあり、座っている老夫婦がいた。


「しー」


 老夫婦にロレッタが人差し指を立ててみせると、二人はにっこりと笑顔でうなずいてくれた。

 ミナトがロレッタと隠れていると、声が聞こえてきた。


「いないなー」


 リディオが通り過ぎてゆく。

 ラファエルやすでに見つかった子もいっしょに通り過ぎた。

 クスクスと声を殺してロレッタは笑って、ミナトに得意そうな顔を向ける。それを見るとミナトも笑顔が浮かぶ。

 そのあと、また声が聞こえてきた。

 今度はさっきとは別の人の声だった。


「ベンチがある。休憩にするか」

「もう仕事は終わったんです。あとは船に戻るだけですよ。そうしたら、せいおうこくに戻らないと」

「りゃりゃ。構わん。少しくらい遊んでもトウリは許してくれる」

「トウリ様はそうかもしれませんが、ヒサシさんには文句を言われると思いますが」

「ひーさんは確かになんか言ってきそうじゃ」


 ミナトは、そんな会話をする二人の声に覚えがあった。しかも、片方は特によく知っている人物のものである。

 だから、「ごめんね、ロレッタちゃん。ちょっと知り合いがいるんだ。またあとで遊ぼうね」とロレッタにささやく。


「おともだち?」

「うん。昔からのね」

「絶対、また遊ぼうね」

「もちろん」


 にこりと微笑みかけ、ミナトは花畑から出ていった。


「りゃりゃ。感じるぞ。《波動》が」

「さすがだなァ。わかりますか」


 にこやかに問いかけると、茶筅まげの青年が振り返ることなく答える。


「当然じゃ。さっきからわかってたわ」

「まいったなあ」

「気にするな。こう近づかねばわからん。わしが遠く離れていても波動でわかるのはトウリだけじゃ」


 ミナトは微笑を携えて挨拶した。


「ふふ。また会いましたね、オウシさん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る