19 『ミートアゲイン』

 ミナトは旧友と再会した。

どう使つかい』たかおう

 茶筅まげが特徴の髪型で、袴と青い着物にウルトラマリンのマントを羽織り、腰には混合六十五振りの一つ『いち長寿花きずいせん』が下げられている。

 年は二十三歳。背は一七一センチ。

 大きな瞳の上には凛とした力強い眉が引かれ、肩越しに、ミナトを射抜くように見返した。

 涼風が吹き抜ける。


 ――おもしろいやつに会えたもんじゃ。


 すでに、オウシは楽しくなっている。だが、笑顔で迎えるよりも再会のちょっとした奇縁を、この涼しげな余韻とたわむれたい気分だった。


「また会ったのう。元気か? ミナト」


 ミナトが神龍島へ行く途中、ルーリア海で遭遇し、そこで数年ぶりの再会を果たした。

 海をゆく手段を、オウシたちは私設海軍の船として持っており、この水軍を鷹不二水軍といった。

 オウシの乗る一軍艦の船『アルタイル』も、ルーリア海を渡りイストリア王国を目指していたのである。

 ちなみに、鷹不二水軍は、貿易や運輸、政治活動まで手広く行うことで知られる。オウシが国主を務めるくにが持つ、武力を要した一種の会社のようなものだった。

 今回はたったの二週間ぶりの再会だから、互いに懐かしむことはない。

 涼しげな威厳のある目がミナトを捉えている。


 ――エヘンエヘン。決まった。


 オウシ大得意の顔である。

 ミナトはオウシのまじめな顔を一瞥し、目を閉じて言った。


「オウシさん、ほっぺたにジェラートがついてますぜ」

「なぬっ。これはしたり」


 さっきまでのかっこいい決め顔が一目散にどこかへ去ってゆき、着物の袖で拭こうとしていた。

 そこに、隣にいた少年がティッシュを差し出す。


「逆です」

「で、あるか」


 ミナトはくすりと笑って、オウシの隣にいる少年に向き直った。


「チョコ味でしたか」

「ええ」

「ミツキさん、お久しぶりです。こんなところでどうされました?」

「お久しぶりです。奇遇ですね、ミナトさん。私と大将は貿易のためこのマノーラまで出向いた次第です」


しょうねんぐんおかもりみつは、鷹不二氏に仕える参謀である。

 メガネをかけた少年で、服装は書生風。手には扇子が握られている。年は十七歳、背は一六五センチ。腰には業物八十振りの一つ、『とこぜん』が下げられている。

 年齢でいえば、ミナトが親しかった人だとケイトが同じになるだろうか。

 オウシは頬のジェラートを拭って、ミツキに抗議する。


「わしは大将じゃのうて隊長じゃ。鷹不二水軍の隊長、たかおうじゃ」

「公の場で大声はやめてください、隊長」

「で、あるか」


 この二十三歳の鷹不二水軍大将は、自分よりも六つも年下の少年の言うことは素直に聞くらしい。ミツキが参謀なのもあると思うが、信頼あってのことだろう。改めて見ても、メガネの下の目は鋭利な賢さがひそんでいる。


「しかし、今日はお二人ですか」

「ええ、二人で充分な仕事だったもので。これから船に戻ろうと思っていたところです。晴和王国に帰るところでした」

「残念だなァ。もう帰られるとは。またオウシさんと遊びたかったのに」

「遊びは遊びでも、剣の試合か」

「ええ。今度こそまじめに遊んで欲しいと思っているんですよ」


 ミナトは刀に左手の指をかけ、飄々と言ってのける。

 そのとき、たったかと男の子が駆けてきた。


「あ、ミナトくんみっけ! まじめに遊んでよー!」

「ああ、ごめんね。あはは。ちょっと知り合いを見つけてしまったんだ」

「そっか」

「うん。だからまた今度遊ぼうよ」

「わかった。いいよ」


 男の子はかくれんぼを再開してまた駆けていった。


「いやあ、怒られてしまったなあ」


 照れたように頭をかくミナトに、オウシは笑って、


「りゃりゃ。ミナトがとぼけるわ」


 ミツキが言う。


「そういえば、ミナトさん。『ゴールデンバディーズ杯』優勝おめでとうございます」

「ありがとうございます。ご存知でしたか」

「ええ。町中で話題になっていますから」

「わしもそれを聞いて、コロッセオに出てみたくなったぞ。どうじゃ? 今から参加してみるのも悪くないと思うが」


 勢いよく立ち上がるオウシを、ミツキが止める。


「一軍艦のみなさんを待たせることになります。戻りますよ」

「よいではないか。一試合だけじゃ。そこでミナトと戦うんじゃ」

「昨日大会に出ていた人と戦うのはどうかと思いますよ。ミナトさんも相当にお疲れでしょう」


 ミナトは二人の会話を笑いながら聞いて、


「僕は構いませんがねえ。が、ランダムマッチですぜ」

「だそうです。諦めてください。そういえば、コロッセオの参加者が失踪する事件もあるようですね。ミナトさんもお気をつけて」

「りゃりゃ。ミナトなら平気じゃ」

「なぜ大将が答えるのですか」


 嘆息するミツキに、ミナトが聞いた。


「ああ、そうだ。僕の友だちの兄が参加者で、失踪してしまったそうなんです。失踪事件について、なにか知りませんか?」

「申し訳ありませんが、我々にはこれといった情報はありません」

「やつが知っているかどうかじゃ」


 オウシが手のひらを横に向ける。

 すると、オウシの手から衝撃波のようなものが飛んだ。

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