15 『ランチタイム』

 並んでベンチに座って、お昼ごはんを食べる。

 その前に、サツキは聞いた。


「ところで、なにを食べるんだ?」

「これです」


 リラが顔の高さにバスケットをかかげる。


「朝言っていたやつか」

「はい」


 リラはひざの上にバスケットを置いて、サツキに見せびらかすようにバスケットのふたを開いた。


「じゃーん」

「おお!」


 サツキは驚いた。

 バスケットの中に入っていたのは、きれいに彩られたサンドウィッチだった。具はタマゴとハムである。


「リラがつくったのか」

「早起きして、頑張ってつくりました」

「おいしそうだな。せっかくこんなにきれいにつくったのに、食べてよいものか。もったいないような……」

「お食べになってください。そのためにつくったんですから」

「俺が元いた世界には、芸術的なお菓子とかもあったんだ。動物や伝統工芸などを精巧に再現したりとかな」


 それと比べるときれいなサンドウィッチというだけかもしれないが、食べたらこれがなくなってしまうと思うとサツキには惜しく感じた。


「リラが知ってるかどうか、わからないが、王都にいるアリコレさんっていう職人さんが作った……」


 と帽子から飴細工を取り出す。


「この金魚の《かたあめざい》みたなものとか。いろいろあった」

「まあ。そんな素敵なものがあるんですね。リラも見てみたい。でもね、サツキ様。これはただのサンドウィッチなんですよ。そんなにすごいものとお比べになられると、恥ずかしくなってしまいます」


 おかしそうに笑うリラに、サツキも表情をやわらげる。


「隙あり」


 と、リラがサツキの口にサンドウィッチの端を入れた。にっこりとサツキを見つめるリラ。

 サツキは一口食べて、よく味わってから飲み込む。


「うむ。おいしい」

「よかったぁ。頑張った甲斐がありました。もう一口、いかがです」


 次も食べさせようと「あーん」してくるリラに、サツキは困った顔になる。


「自分で食べられるぞ。いただこう」


 と、手に取って食べた。


「リラがあーんしてあげたかったのに。サツキ様ってばいけずです」


 不満そうに言いながら、本当は恥ずかしかったリラはほっとする。


 ――このまま食べさせていたら、リラの心臓がもたなかったかも。なんて。


 ふふ、とリラは小さく笑った。

 昼食を終えて、時計を見ると、十二時半になっていた。


「いい時間になってきましたね」

「うむ。このあとは『悪魔ノ口』というのを見に行くんだったな」

「はい。芸術というより観光地のようですが、行ってみたいところがあるんです。リラと遠回りしながらお散歩しましょう」

「それもいいな。カルミネッロ広場を出発しよう」


 少し歩くと、リラがサツキの手を引いた。


「ねえ、サツキ様。リラ、あそこに行ってみたい。あの人だかりも気になります」

「観光地みたいだな」


 建物の外壁が目当てになっており、観光客もまばらにいた。


「せっかくだから行ってみるか」

「はい」


 さっそく行ってみると、建物の窓にはステンドグラスが光り、繊細ながら荘厳な内装が美しかった。

 リラは目を輝かせてステンドグラスを見回す。


「きれい」


 うっとりとしたため息がこぼれる。


「ここも来てよかったな」

「はい。このような華やかな場所を見られるなんて、感激しております」


 次々に目が移って足も進む。


 ――楽しいなあ。サツキ様も楽しんでくれているかな? サツキ様のことも楽しませたいな。あ、そろそろだ。


 しおりにも書いていたスポットが見えてきた。

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