13 『ライフエントラスト』

 そろそろすべて見終わるというところで、リラはピタリと立ち止まる。

 そこには、


「命」


 をテーマにした絵があった。

 その絵は常人には理解できない表現にサツキには思われたが、惹きつける絵だとは思った。

 作者は問笛螺徒駈峰路モンフェルラート・カルミネッロとある。


 ――カルミネッロ。どこかで聞いた名前だ。


 サツキは記憶をたぐってみる。


 ――……って、このあと行く場所の名前じゃないか。カルミネッロ広場だ。この人の名前から取ったのか。


 リラはあとでそれを説明するつもりだったのかもしれない。その広場には仕掛けがあったと思ったが、それもこの芸術家に由来するものだろうか。サツキはそう考えて、少し楽しみになった。


 ――それにしても、リラは随分と熱心にこの絵を見ているな。


 眺めていたリラが、隣にいたサツキに言った。


「リラは……身体があまり丈夫ではありません」

「……」


 このせいで、リラは幼少の頃からたくさん苦労してきたらしい。旅の途中でも、たか氏のお世話になった。たかとうまつなががそれぞれに手を尽くし、リラはそれ以降は大きな体調不良もなく旅ができている。サツキはトウリを知らなかったが、実は王都で一度すれ違ったことがあり、ヤエとは神龍島へ向かう船の上で出会っている。


「でも病気でもありません。命を大切に、毎日を生きています。しかし、リラのこの命は、サツキ様にお預けします」


 そう言って、リラがサツキに向き直る。

 サツキもリラを見返し、


「士衛組局長として、すでにその自覚はある。だが、そういうことじゃないんだよな」

「はい」

「覚悟の言葉、か」

「すでに、国の存亡はリラやお姉様、それにお父様とお母様の命の存亡と同義です。それらをサツキ様に背負わせてしまっている上に、預けるというのは負担を増やす言葉かもしません。だからこれは、リラがすべてを賭けてサツキ様と共にゆくことを誓う言葉だと思ってください」

「なるほど。誓いの言葉か。うむ、わかった」


 命を軽んじて言っている言葉ではない、とサツキにはわかっている。

 大切にしているその命を、もっと危険に近づけるが、それを厭わない、最終目標のための硬い意思表明。

 改めて、この絵を見ることで、命を重さを再認識し、サツキに託したいと思ってくれたのだ。


「リラの命、預けましたからね。どんな危険も、共に乗り越えましょう。リラができることはなんでもします。リラが、サツキ様のイメージを実現する力になれたらうれしいです!」


 そう言って、リラは美しい微笑を浮かべた。

 元々、サツキはリラが美術館に行きたいと言ったとき、リラの魔法《真実ノ絵リアルアーツ》を開花させる手助けにもなると思って、喜んでその話を受けた。

 創造力が魔法の力を高めるのには大事だが、リラの《真実ノ絵リアルアーツ》は特にそうした側面が強い魔法だからだ。

 しかし、リラにはそれだけじゃないもっといろいろな刺激があったらしい。


 ――やっぱり来てよかったな。ありがとう、リラ。


 サツキもまた、リラという少女をさらに知って、リラによって良い刺激を受けたように思った。

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