12 『バラクロフアートミュージアム』

 サツキとリラは美術館に到着した。

 バラクロフ美術館。

 バラクロフ公園の中にある美術館で、このバラクロフ公園はマノーラで三番目の広さを有する。


「美術館の他にも、動物園なんかもあるそうですよ」

「動物園か。このバラクロフ公園は、庭園も綺麗だな」

「アルブレア式庭園になっているそうです。言われてみると、リラにはなじみのある造りに感じられます」


 リラお手製のしおりにも、アルブレア式庭園と書いてある。アルブレア王国はサツキの世界ではイギリスに相当し、文化もよく似ているため、イギリス式庭園のイメージそのままだ。

 公園では遊んでいる子供たちもいるし、家族連れも多い。


「一足先に、アルブレア王国の雰囲気を楽しめたな」

「はい」


 二人が歩いていると、いくつか建物もあった。家のようにも見える。


「あれも家だろうか」

「そうだと思います。昔、大富豪のバラクロフ家が別荘としてこの一帯を庭園にして、その中にバラクロフ家が所有する美術品を飾った館も建てたそうです」

「へえ。バラクロフ家の美術品を元にできた美術館って、そういうことだったんだな」


 しおりに書かれたことの詳細がわかり、それもまたおもしろく感じられた。


「リラは詳しいな」

「だって、リラ、楽しみにしてましたもの。張り切って調べてきたんです」

「頼もしいな」


 ふふ、とリラは楽しそうに笑った。

 二人は美術館に入った。




 館内には、たくさんの美術品があった。

 一階と二階で展示するものが違っており、一階では主に彫刻、二階が絵画になる。ただ、彫刻を飾る部屋の壁には絵が掛けられていたり、天井には絵が描かれていたり、どこを見ても鮮やかな美術館である。

 二階に来て、赤い絨毯の上を歩きながら、左右に展示された絵を見てゆく。窓から明るく柔らかな光が差し込み、美術品もいっそう綺麗に見えた。

 落ち着きのある館内では、一つ一つの芸術品を堪能するゆとりがある。

 途中、リラは不意に立ち止まると、長らく同じ絵を見ていた。

 ハッとしてリラは聞いた。


「す、すみません。サツキ様、わたくし、どれくらいここに立ってましたか?」

「一分ほどだ」

「なぁんだ。て、そんなに短くありませんよぅ。せっかくリラが芸術家っぽい感じを出してみましたのに」


 と言って、二人は小さく笑った。他のお客さんの迷惑にならないようにこっそり笑い合い、逃げるように歩を進める。



 リラは、動く絵を見つけた。

 その絵を指差し、リラはサツキを振り返った。


「見てください。動く絵ですよ。綺麗ですねえ!」

せいおうこくの町に、雪が降ってる絵だな」

「作者は……あ、やっぱり」


 この絵の作者には、がわとめろうの名前がある。リラも知っているようだったが、サツキにも覚えがある。


「トメさんか」

「え、サツキ様もご存知なんですか?」


 ちょっとびっくりした顔のリラに、サツキは笑ってしまった。


「王都で見かけたんだ。昼間は紙芝居師、夜は絵を売っているって、チナミが言ってた」

「なるほど。チナミちゃんと見ていましたか。リラも王都でナズナちゃんと紙芝居を観たり、お母様と夜に絵を売っているのを見たことがあるんです」


 トメタロウの絵は、《さいせいかい》という魔法によって創られている。いくつかの画を一枚に閉じ込めることで、それを連続再生して動画のように動いて見えるようにするとチナミは教えてくれたものだ。つまり、パラパラ漫画みたいな要領である。


「しかし、美術館に飾られるほどの芸術家だったんだな」

「本人は芸術家だとは思っていないかもしれませんね。でも、周りはトメさんの絵を評価しているそうですよ」

「ふむ。さすがはトメさんだ」


 あんまりよく知らないくせに、サツキは妙に納得した気持ちになった。

 それがおかしくてリラはつい笑ってしまう。

 トメタロウの絵は魔法によって動くよう仕掛けがされているが、ほかにも魔法が施された美術品も何点か飾られていた。

 どれも興味深く、サツキは楽しく見て回った。

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