8 『アルカナ』
九月十一日。
早朝。
サツキは左目を押さえて、呼吸を整える。
場所はロマンスジーノ城の庭。
一人修業をしていたところ、左目に宿ったパワーが急に膨らんで、魔力がやや暴走気味になったので、またフラットな状態に戻そうと思ったのだ。
「《賢者ノ石》。これはやはり、制御が難しそうだな」
昨日のファウスティーノのモルグでの会話を思い出す。
この《賢者ノ石》を左目に埋め込んだ悪魔・メフィストフェレスは、こんなことを言っていた。
「魔力の暴走とキミは考えているようだが、それはキミが力をコントロールしていないだけに過ぎない。わかるかい? その力は自由に使うことができるものなんだ。たとえば、ファウスティーノが治療に使うようにね。的確な使い方というのができる。しかしキミはコントロールを放棄しているようなものなのさ」
「そんなつもりはない、と言いたいことはわかるのだ。しかし、事実《賢者ノ石》は勝手に効果を発揮するものではなく、使用者が扱うべきものなのだ」
と、ファウスティーノも言った。
「例を挙げよう。キミに与えし《賢者ノ石》にできること。その一つに、魔力を貯蔵することがある。瞳に魔力を貯蔵しておけば、使いたいときに大きな魔力を解放できる。確か、キミのバトルスタイルも魔力を凝縮させて爆発的な力に換えるものだったね。あれといっしょさ。普通はその魔力の凝縮ができない中、キミにはそれができる。さらに左目にその力を貯蔵しておけばいい」
「メフィストフェレスは簡単に言うが、私が道具として《賢者ノ石》を扱うのと違い、自分の肉体と連動される分、コントロールは難しいはずなのだ。その瞳と向き合い、少しずつ慣らすことだ」
二人はそんな助言をくれた。
また、サツキにとっての先生である玄内にも相談したのだが、曰く、
「《賢者ノ石》を身体の一部としてコントロールしきれるのならば、おまえはあの悪魔と同じレベルの存在になっちまう」
とのことだった。
「同じ存在、ですか」
「そこまでの超人になる必要はないってことだ。完全にその力を支配するのは無理だと思え。《賢者ノ石》ってのは、究極の物質・アルカナと一部で同一視されている。神秘的な秘蔵物質でな。聞いた話じゃあ、こいつには魔力の性質を変換する力があるらしい。人体の修復にも用いられる効果だが、おそらく魔力を火にも水にも変質できる」
「確かに、そうじゃないと人智を超えた治療はできないですね」
「そんな芸当はできるようにならない。よほどコツをつかまないとな。だから、魔力の制御だけできるようになれ。それで充分だ。ただでさえ、おまえの成長速度に《波動》が追いついてこられてないんだからよ」
「はい」
玄内にはそうしたことを告げられた。
だからサツキは、《賢者ノ石》の最低限の制御ができるようになるための修業をしていた。
最初は、溢れる力を身体に快くみなぎらせるくらいの感覚で空手の型をしていたのだが、徐々に余計なほどの力を感じるようになってきた。
そこで手を止めて呼吸を整え、力がほどよく抜けてきたので、また拳をぎゅっと握ってみる。
「……ふむ。力が入りすぎる。
ライオンはウサギを狩る時も全力を尽くす、というように、些細なことにも全力を尽くすのがよいのもわかるが、コントロールも大事だ。特に、今のサツキには。
――このあと、リラと出かける予定もあるし、修業できるうちに頑張っておかないと。
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