7 『ローテイショナルスピード』

 地球の引力と月の公転運動による移動速度は、うまいこと釣り合っている。

 だから一定の距離を保つ。


「これは地球と太陽もいっしょだ」

「ついでに、地球も自転している。だから、身体をひねってタイミングを合わせれば、《中つ大地ミドルアース》の引力と釣り合ってヒヨクくんとの距離が保てる、と」

「うむ。俺の世界にいたニュートンという人が見つけたものだ。リンゴが地球に落下するのは引力のせいだ。それなのに、なぜ月は地球に落ちてこないのか。それをこんな論理によって導き出した」


 話の途中からサツキとミナトの二人でしゃべっている状態だったが、ヒナも口を挟んだ。


「そういうことだったのね。納得だわ。でも、よく調整できたものだわ」

「俺の左目が、前よりよくものを見られるようになったからってのもある。が、調整はあまり必要ないぞ」

「え? どうしてよ」

「速度が引力と釣り合えば、一定の距離を保ち続けられるんだ」

「あ。そっか、回転の向きさえ気をつければいいのよね。あとは、速度が引力に勝れば離れる力が上になる」

「そういうこと。だから、ミナトには回転の向きだけ教えて速さだけ気をつけさせた」


 ミナトは完璧には理解していなそうだったが、


「だから適当な攻略法しか教えてくれなかったのかァ。おかしいなあ」


 と笑っていた。


「これによって、サツキくんは最後、試合を決められたんだね」


 どこから話を聞いていたのか、レオーネが歩み寄りそう言った。


「《中つ大地ミドルアース》を使われるが、身体をひねった回転と移動速度で無効化して、《波動》で《シグナルチャック》も無効化。二重トラップをかいくぐり、ヒヨクくんに掌底を放った。しかも、直接は触れないよう、風圧で場外を狙った。そう考えると、手心を加える措置だったね」

「い、いえ。あれは《賢者ノ石》で魔力が暴走したからで。そんな余裕はなかったです」


 あはは、とレオーネは爽やかに笑った。


「冗談だよ。でも、キミたちは完全にあの二人の上をいった。あとで戦うのが楽しみだよ」

「サツキさんたちには旅の目的もありますし、それが終わったあとでも、いつでも好きな時に挑戦してきてください」


 と、ロメオが言った。

 ここにロメオの弟のリディオもやってきて、


「すごかったよな、サツキ兄ちゃんとミナト兄ちゃん! ロメオ兄ちゃんと戦うのも楽しみだぞ!」

「コロッセオ側は早くその試合をセッティングしたいだろうけど、旅のあとでもいいと思いますよ」

「そのほうがサツキ兄ちゃんとミナト兄ちゃんもめちゃくちゃ強くなって、みんなびっくりするしな!」

「そういう意味じゃない」


 と、ラファエルと返す。

 サツキはふと思い出して、リディオに問うた。


「そうだ。リディオ、試合のあとにファウスティーノさんと連絡を取ったあの魔法。電気信号じゃないか?」

「おう! そうだぞ。サツキ兄ちゃんくらいだな、一度見ただけで気づいたのは」

「この世界では電気信号があまり一般的じゃないから仕方ないさ。俺は知識もあったし、目があっただけだ。それより、リディオはその魔法を通信にのみ使うのか?」

「そうだけど、ほかに使えるのか?」


 不思議そうに聞き返したリディオ。

 サツキは口に手をやって考え、


「ツキヒくんの《シグナルチャック》も、電気信号だった。そんな相手と戦った直後だったから思いついたというのもある」

「つまり、リディオの魔法も戦いに使えるということですか」


 ラファエルが意外そうな顔をした。


「うむ。だが、すぐに使えるものかもわからない。そのうち機会があれば試してみるといい」

「おう! 早く聞かせてくれ!」


 サツキは思いついたことをそのままリディオに話していった。

 レオーネとロメオもおもしろがったし、リディオは早く試してみようとしたがったが、もう夜も遅いのでまた明日ということになった。

 こうして、祝勝会はその晩長く続き……。

 翌朝。

 それぞれの思惑を持った人間たちが動き出す。

 この日――ヒナの父・浮橋教授の裁判が行われる前日、ここマノーラで大きな戦いが繰り広げられることになる。

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