6 『オルビタルモーション』

 サツキはメフィストフェレスやレオーネを相手に話しながらも、ファウスティーノに身体のメンテナンスをしてもらった。

 試合によるダメージはおおよそ《賢者ノ石》でなんとかなったが、細かい調整を施してくれたらしい。

 帰るときになって、メフィストフェレスは名残惜しさを顔に滲ませて言った。


「大変に興味深い話をたくさん聞かせてもらったよ。あぁ、ボクはなんて幸運なのだろうね。キミに出会えるとはね。ボクはいつでもキミを歓迎する。マノーラに滞在している間は、いつでも好きな時においで。ファウスティーノも喜ぶ」

 チラとサツキがファウスティーノを見やると、

「構わないのだ。いつでも訪ねてくるといいのだ」


 と言ってくれた。

 だからサツキも「はい」と答えた。

 そして、この建物から外に出て、レオーネは外観を見せて道も教えてくれた。

 少しばかり歩き、人に見られていないのを確認して路地に入ると、レオーネが魔法でルーチェの《出没自在ワールドトリップ》を使い、三人はロマンスジーノ城に戻った。




 サツキとルカとレオーネが戻ると、城内はサツキとミナトの祝勝会の準備がすっかり整っていた。

 祝勝会は、士衛組とヴァレンたち『ASTRAアストラ』、それにアキとエミの総勢二十人で行われた。

 そのため終始賑やかで楽しい時間になった。

 途中、サツキはヒナに聞かれる。


「ねえ、サツキ。最後の試合、《中つ大地ミドルアース》をどうやって無効化したの?」

「気づいていたのか」

「当たり前よ! もちろん、完全に無効化したわけじゃないわ。正確に言うなら、あれから逃れる手を見つけたのよね?」

「よくわかったな。すごい観察眼だ」


 サツキに驚かれ、ヒナはむっとした顔をする。


「観察眼なんてないわよ。あんたたちの会話が、ちょっと聞こえただけ。あたしの《兎ノ耳》は小さな音でも聞こえるの」


 そこでミナトが笑って、


「じゃあ、あの弱点についても聞こえてたってことだろう? それなら、もうわかってるじゃないか」

「会場がうるさくてよく聞こえなかったのよ! だからこうして今聞いてるんじゃない」

「ヒナも強くなるために熱心になったものだねえ」

「べ、別に元々やる気がなかったとかじゃないけど、ただ、今回は星の性質を利用したんじゃないかって思って……その……」


 つまり、天体に絡んだ戦術ならば知りたいという探究心によるものだ。


「なるほど。俺が気づいた点は、《中つ大地ミドルアース》には自転する性質があることなんだ」

「自転? 地球とか、惑星が回ってるっていう」

「うむ。俺は、ミナトが身体をひねったことで《中つ大地ミドルアース》から逃れたのを見て思いついた。地球が太陽の周りを回っているのは、太陽に引力があるからだ。月も同じように地球の引力によって近くにある」

「そうね」


 試合中は攻略法しか聞いていなかったミナトは、細かい仕組みの話を初めて聞く。その上、天文の話についても知らないことが多いため、サツキの説明が引っかかった。


「あれ? でも、そうしたら、僕らが《中つ大地ミドルアース》に引っ張られたみたいに、地球は太陽に引き寄せられて燃え尽きるじゃないか。月だって地球に降ってこないし、おかしいよ」


 と、ミナトが疑問を呈する。


「普通、そう思うよな。しかし、実際には強い引力の星に引っ張られているのにぶつからない。完全に引き寄せられず一定の距離を保っている。これは、公転運動のおかげなんだ」

「公転運動?」


 ミナトは普段、サツキやヒナたちが天文の話をするのに興味を示さない。だからそのへんのことも知らなかった。


「地球は太陽の周りを回っている。そうやって物体が別の物体の周りを円軌道や楕円軌道で回ることをそう呼ぶんだ」

「ほうほう。で、なんで月が地球に落ちてこないで、距離を保っているんだい?」

「端的に言えば、月は地球に落ちてきているが、公転運動で前に進み続けているから落ちない。つまり、地球の引力と月の前進する速度が釣り合って、一定の距離を作り続けるんだ」


 その理論によって、《中つ大地ミドルアース》の攻略法が考えられるのだ。

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