5 『フィロソファーズストーンアゲイン』

「完璧ではない代物を埋め込むのだ。すなわち、実験体になってもらうわけさ。前より強力なものを埋め込むことは、それだけリスクが高まることを意味する。城那皐くん、キミはその力に溺れて飲み込まれるかもしれない。《賢者ノ石》には、それだけ強力な力が秘められている。だが安心したまえ。なにかあれば、またファウスティーノがボクと共に治療するし、大した危険とは言えない。我々がいる限り、ね」

「勝手に私を巻き込むな」


 だが、ファウスティーノも治療しないとは言わない。

 ルカはサツキがどう判断するかも大事ながら、


 ――どうする? 関わらないほうがいい? それとも、せっかくあれほどの力を得られるのなら、受けるべき?


 と迷っていた。

 当然、サツキも考える。

 そこに、レオーネが助言をした。


「サツキくん。彼らの友人として言っておこう。オレの意見は、受けるべきだ。酔狂な悪魔だけど、メフィストフェレスも悪いやつじゃない。ファウスティーノは信頼できる。せっかく得られる力はもらっておくといい。この悪魔に気に入られたことも、キミの力だからね」

「おやおや。思わぬ援軍が入ってくれたね。そしてファウスティーノ、キミと同じようなことを言うんだね、レオーネも。ボクに気に入られることも彼の力だと。うんうん、ボクもそう思うよ」


 電卓を弾くような計算をやめて、ルカもそれに同意した。


「そうね。もしなにかあれば、私もサツキのためになんでもする。応急処置とか、できそうなことは私が学んであなたを支える。だからあなたは、もっと強くなることをひたすらに考えるべきだわ」


 二人の言葉に、サツキは決心する。

 サツキはルカとレオーネを見てうなずき、メフィストフェレスに答えた。


「メフィストフェレスさん。お願いします。俺はもっともっと強くならないといけません。俺はミナトと並べる存在になりたい。守りたいもののために強くなるのはもちろん、この大会を経て、俺はそんな目標も持ったんです」

「ああ、ステキな目標じゃないか。いざなみなとくんも決勝戦では苦戦していたかな?」

「俺ほどではないですが、対戦相手のツキヒくんの魔法で心臓を止められたり、結構苦戦したかと」

「それでも、ミナトくんは傷一つ負わなかった。いや、今大会で唯一、無傷だったのがミナトくんだったよ」


 レオーネがそう言うと、メフィストフェレスはおかしそうに笑った。


「常人ではないからね、彼。そうだろうとも。そのいざなみなとくんと並び立つには、生半可な力じゃ足りない。城那皐くん、キミも強くなる覚悟があるようだし、ボクも協力しよう」

「ありがとうございます」


 ルカも続けて、「私からも、ありがとうございます」とお礼を述べる。


「いいのさ。ボクのためでもあるんだからね。さて、そうと決まったらまずは《賢者ノ石》の譲渡をしよう。それから、たっぷりと話を聞かせてもらおうじゃないか」

「メフィストフェレス。このあと、ロマンスジーノ城でサツキくんの祝勝会がある。今日のところはほどほどで解放してあげてくれ。彼も疲れているだろうしさ」


 と、レオーネが爽やかにウインクした。


「確かに疲れもあるかもね。だが、《賢者ノ石》があれば疲れも癒えるよ。まあ、今日は長居をさせないでおこう」


 このあと、メフィストフェレスはサツキの左の瞳に《賢者ノ石》を埋め込んだ。

 正確には、埋め込み直したということになるのだろうか。

 研究成果によって改善点も発見できたと言ったメフィストフェレスだが、それをどう活用したのか、サツキの瞳に触れるのみですぐに埋め込みは終わった。

 触れるだけで埋め込めるので、それはたったの一瞬のことだった。


「さあ。いいよ、キミはもう《賢者ノ石》の力をその目に宿したんだ。大抵の怪我ならその目が治してくれる。先の試合で体験したようにね。ただし、やはり力は無限じゃない。いつかはなくなる。それでもキミが目標を達するまでなら大丈夫なはずだが、無理は禁物だよ」

「ありがとうございます」


 メフィストフェレスはそのあとで、にこりと微笑んでうなずき、あとはサツキの世界についての話をしたのだった。

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