2 『アンキャニィモルグ』
マノーラのとある一角にある建物内。
『
連れてきてくれたのは、『
レオーネは、彼の魔法《
サツキは連れて来られるとすぐに、ここが普通の病院とは違うと理解した。
肌寒く、殺風景で陽の光がない。
壁一面に引き出しがあり、広い部屋なのにテーブルが三つあるだけ。
そんな空間に、全身が真っ赤な衣装に包まれた悪魔・メフィストフェレスがいて、針金のように細身で真っ白な白衣をまとった闇医者・ファウスティーノがいる。
共に背が高く、ファウスティーノが一八〇センチ以上、メフィストフェレスは一九〇センチもある。
この二人は『
ファウスティーノは、二十一歳のレオーネより四つ上の二十五歳。メフィストフェレスは悪魔だから年齢という概念はないそうで、見た目には二十代後半から五十代くらいまで何歳にも思われる。
サツキはこの部屋の壁に目を走らせ、
「確かに、メフィストフェレスさん、あなたに聞きたいことがあります。でもその前に、ここはどこですか?」
尋ねた相手はファウスティーノだ。
医者の彼が待っていたこの場所は、とても治療室のようには見えない。であれば、ここはどこだというのか。それが気にかかる。
「モルグなのだ」
「つまり、死体の安置所……」
と、サツキは理解した。
ファウスティーノが引き出しの一つを開けると、シートがかぶせられていた。そのため死体は完全に覆われていて顔も見えない。
「そう。このシートの下には、死体があるのだ」
「想像した通り、この部屋の壁は一面に引き出しがあり、それらの中には死体が入っているんだよ。要は、これら引き出しは冷凍の棺桶の役割をしているわけだね。そして、八十四体の死体を保管できる」
細かいことまでメフィストフェレスが教えてくれる。
ここで、レオーネが言う。
「実は、この建物は病院と隣り合っているただのマンションなんだ。ただし、外からはそう見えるが、一階部分であるここは、病院の敷地にもまたがっている」
「要するに、ファウスティーノさんは病院とも提携しているのですね」
と、ルカはつぶやく。
メフィストフェレスは饒舌に説明していく。
「そういうこと。隣の病院で死んだ人間や、病院の人間たちでは解明できない死体が、ここにはやってくる。ファウスティーノは病理学者でもあって、医学全般の研究に興味があるから、そんなファウスティーノにはおあつらえ向きの構造になっているのさ」
「メフィストフェレス。それだと私が趣味で死体をコレクションし解剖しているみたいなのだ」
「失礼、ファウスティーノ。実際のところはこれらの死体はいろいろと用途もあるからこんなモルグが存在するわけで、そこにファウスティーノの趣味は関係ないから安心したまえ。キミになにか変なことをするようなやつじゃないよ」
「むしろ、変なことをしたのは自分ではないか」
と、ファウスティーノはため息をつく。
「死体の用途とは、なんでしょうか。先程は聞けなかったので、気になっていたんです」
ルカが聞くと、メフィストフェレスは答えようとして口を開き、それからサツキを見る。
「なんだと思う? 城那皐くん」
「死体の状態にもよるでしょうが、様々な状態のものがあるとすれば、いくらでも考えつくかと」
「うんうん、そうだよねえ。たとえば、綺麗な死体の二次利用だと?」
「鮮度がよくまだ機能的に利用可能ならば、パーツの移植。ファウスティーノさんの腕の良さをルカに聞いた範囲でも、目や腕や臓器など、求める人間に移植してやることもできるでしょう。そのほかにも、死体を売ることも考えられます。顔だけファウスティーノさんが変形させて、アンダーグラウンドな人たちがそれを買って、死体の偽装工作をするとか。個人でも、自身の死を偽装して生まれ変わるために使うなんてこともあるでしょう」
「あはは。城那皐くん、キミはその年で恐ろしいことを次々と思いつくね。素晴らしいよ。ファウスティーノは死体を売るようなことはしないが、パーツの利用ならば時々やるから、ほとんど正確と言っていい。前にも、ターゲットの抹殺に失敗して死体だけ買ってごまかそうとするやつに、ファウスティーノはそんな依頼は受けられないと断っていたんだ」
「なるほど」
ファウスティーノにもファウスティーノの考え方があるのだろう。
こうした話をルカは興味深く聞いていたが、サツキはもうこれ以上のことを聞きたいとは思っていなかった。
サツキがそれ以上口を開こうとしなかったので、ルカは質問をさせてもらう。
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