168 『フライフィスト』
サツキの狙いは、拳を直接ヒヨクに叩き込むこと。
――俺の《波動》は使い切った。これで場外にできなかったのは、俺の見立てが甘かったからだ。ヒヨクくんの《
完全にやったと思って、溜めてきた《波動》の力は使い果たしてしまった。
――《波動》もなくなって、魔力も一気に消耗してしまったが、ここで攻めなきゃ勝てない! いくぞ! 力の勝負だ!
残った魔力で高く飛び、ほとんど魔力もない拳を繰り出した。
「高い飛翔だー! これは、ヒヨク選手にも届く高さだぞ! そして、打ったー!」
飛びながらの拳が、ヒヨクに命中する。
「《
つかみかかろうと構えるヒヨク。
しかし、ヒヨクの手が伸びる前に、サツキの拳はまっすぐヒヨクに飛んでいく。
「拳を振り抜き、ヒヨク選手に直撃ー!」
サツキの拳は、ヒヨクの腹部に入った。
「うあああっ!」
ツキヒはその声で、ヒヨクがやられたことを理解した。おそらく、もうヒヨクは戦えない。
――ヒヨク……!
状況は、クロノが説明してくれる。
「ヒヨク選手! 今度こそ場外に吹き飛ばされたー! サツキ選手は左手で《
クロノの声に、観客はツキヒのほうへと視線を移す。
どこからかミナトが戻っていたことに気づいていた数人以外は、すでに手を刺され倒れているツキヒをここで初めて見ることになる。
「ミナト選手がツキヒ選手の前に立っています! ツキヒ選手は倒れ、手を斬られているようです! つまり、ミナト選手がいつの間にか舞い戻り、ツキヒ選手を斬ったということでしょうか!」
状況がまだ把握できていないクロノに、レオーネが立ち上がって数歩近づき声をかける。
「彼は落ちてきたんですよ。上空へと消え、それからずっと落下してきた。落下による加速で力を高め、その力を利用して刺した」
レオーネの説明を受け、クロノは言った。
「な、なるほど! 身体が動かなくなっても、高速で移動できるような魔法によって上空へと消え、そして落下の力で刺したということですね。落下の位置を合わせれば、腕を自由に動かせなくても狙いをつけて刺せる。その後、落下の衝撃とツキヒ選手との接触を利用して、《
顔を上げずとも、ミナトの影で刀を向けられていることはわかった。
「剣での勝負を所望なら、僕はそれを受けるよ。その怪我を治してはやれないけど、待ってあげる。剣を拾ってきていい。魔法勝負も望むところだ。どうする?」
ミナトに言われて。
ツキヒは起き上がりかける。
が、手を地面につき、膝をついたところで、
――ごめん、ヒヨク。やっぱりおれひとりじゃ戦えないよ。
手から力が抜け、顔を伏せたまま、震える声で言った。
「降参します。おれたちの負けです」
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