167 『フォールソード』
「ヒヨク選手がサツキ選手につかみかかったが、サツキ選手は《シグナルチャック》をいつ解除したのか、ヒヨク選手の攻撃を弾き! なんと! 掌底を繰り出したー!」
クロノの実況が入ったとき、サツキはもう掌底を放っていた。
「《
サツキにとってはかなり難しい調整の一撃だ。
――溢れてやまない、暴走した魔力。それを制御はしきれなかった。直接打ち込むとどれほどの威力になるのかわからない。だが、相手に触れなければ、吹き飛ばせる!
そう予想した。
未知の力の予想は、正確にはできない。
しかし、思った以上のパワーで《波動》の力が乗りながらも、吹き飛ばすには充分過ぎる威力が出力されたとわかった。
ヒヨクは打ち出されるように宙を飛んでいった。
「くっ、《
判断は早かった。
場外までは刹那の時間しかないはずなのに、対策を施したのである。
「飛んだー! ヒヨク選手、飛んだー! 今度の《
サツキとヒヨクの激しい攻防中に、ツキヒは手を刺された。
突然空から降ってきた剣に刺されたのだ。
「くあぁ!」
降ってきた剣の正体は、わかりきっていた。
ミナトである。
剣を持ったミナトが、上空から落下してきたのだった。
――そうだったのか~……。ミナトはやっぱり高速で移動できる魔法を持っていて、その力で上空に消えた。だからだれもミナトを目で追えなかった。ずっとミナトの存在に気づけなかった。ずっと落下してたんだから。
では、なぜわざわざ上空に移動して落下したのか。
理由は簡単だ。
――《シグナルチャック》によって、ミナトは腕を振れなくなった。だから、腕を振らずに、落下のスピードとパワーでおれを刺そうとしたんだね。
結果、ミナトの策は見事に的中した。
ツキヒは手を刺され、その勢いとパワーで前のめりに倒れて動けなくなった。もう片方の手はまだ無事だが、ミナトはツキヒにぶつかり着地することで、《
それに関しては解除できるかは運になるが、ミナトはその運をつかんだ。
もう普通に立って動けるようになっている。
――ミナト、すごすぎ……。
予想外の戦術に、ツキヒは完全に不意を突かれてしまった。
「まずは片手」
と、ミナトはつぶやく。
会場のだれもがサツキとヒヨクの戦いに気を取られて、ツキヒがミナトに手をやられたと気づいている者はほとんどいないだろう。
「お、おい! あそこ! ミナトだ!」
「ツキヒがやられてる!」
「だが、向こうはサツキがヒヨクに拳を……!」
ミナトの存在に気づいたわずかな人たちを除けば、サツキとヒヨクの戦いから目を離せない人しかいない。
「サツキ選手、上空二メートルの位置にいるヒヨク選手に飛びかかる!」
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