166 『シィーズチャンス』
コロッセオの舞台上で、ツキヒはそんな過去を思い、ここで負けられないと強く感じる。
――サツキとミナトの事情は、わからなくもない。察する部分もある。でも、おれたちだって負けられないんだよね~。大手を振って売り出してもらうためには、タイトルを取るのが一番だから。ここで勝って優勝しないと、ヒヨクの夢を叶えてあげられるのが遅くなっちゃうんだ。
ヒヨクの夢は、父の柔道の道場を復興させること。
そのためには、自分が有名になって道場を宣伝して、人に集まってもらうのが大事だとヒヨクは考えている。
だから歌劇団に入ることを決めたヒヨクなのである。
――ヒヨクのお父さんの道場は、
世界中から実力派の戦士たちが集まるコロッセオ。そこで開かれる大会で、柔術を使って優勝したら、柔道の強さが証明される。しかもそのヒヨクが学んだ道場となれば、近所どころか
そこは、ヒヨク自身も考えているかもしれない。コロッセオは柔術のアピールの場としてはとても効果的なのだ。
――たまに故郷に想いを馳せるような顔をしているのを知っているから、おれはヒヨクの夢をちょっとでも早く叶えてやりたいって思ってるんだ。そのために、おれは魔法も磨いてきた。魔法をもっと強力にするためにたくさんの本も読んで知識をつけて、魔法の可能性を広げてきた。
まだ脳機能を止めることはできないが、心臓を止めるという破格の技までできるようになった。
それもこれも、ヒヨクを早く歌劇団のメンバーにして有名にしてやるため。
――『春組』では、同い年のホツキがデビューした。それを聞いたのは、こっちに来てからだったかな~。そのときも、ヒヨクはちょっとだけ焦った感じがあった。ホツキのほうがおれたちより後から研修生になったんだもん、当たり前だよね。
少年少女歌劇団には、五人という人数構成がある。
これは一応決まったものとして例外はないらしい。
王都少年歌劇団『東組』には、ずっと空きがない。王都少女歌劇団『春組』には欠員があったとはいえ、ヒヨクが焦るのも仕方ないことだ。
実際、ホツキは欠員ができるからこそスカウトされたのだが、細かい事情はすでに海外に渡っていたヒヨクとツキヒにはわからない。
――でも、そんなことより、今はチャンスが目の前にある。そのことが大事だ。今ならつかめそうだから、この手を……。
ツキヒは長巻も捨てている。
現状、残された武器は魔法《シグナルチャック》だけ。
この最大の武器で、サツキを仕留めたい。
腕の機能を少しでも止めるか、心臓を止めて完全な機能停止をさせるか。
連続してツキヒは《シグナルチャック》を放った。
――もうミナトはいい。おれがミナトに斬られてもいい。サツキさえ止めれば……! ヒヨクと二人なら……! おれたちは勝てるはず!
サツキはこちらの動きまですべて見えているかのように、ツキヒの《シグナルチャック》もよけてくる。
ここまで目のいい選手は初めてだ。
「ツキヒ選手はサツキ選手を捉えきれない! しかーし! サツキ選手も余裕があるとは言えない、険しい表情だぞー! この攻防はいつまで続く……いや! 来たー! ツキヒ選手の《シグナルチャック》が決まったー! サツキ選手、ついに腕が固まったー! 腕の機能が停止して、大きな隙を作ったー! そこにヒヨク選手がつかみかかるー!」
会場が盛り上がり、ツキヒはサツキの腕の形からも動かせなくなったとわかった。《シグナルチャック》が発動したのだ。
――やった。これで……え?
しかし、ツキヒは目をしばたたかせた。
――解除? どうやって?
サツキが、《
腕が急に動き出して、サツキはヒヨクが伸ばした手を払った。
バチッと弾けるようなパワーが、サツキの腕をまとっている。同じ波長を扱う者として、ツキヒにはわかった。
――《波動》か……! 《波動》で《シグナルチャック》を打ち消せたのか。いや、できるようになったかな。この戦いの中で……。
ツキヒが驚き、次の《シグナルチャック》を繰り出すのを思わず忘れてしまっていたそのとき、それは来た。
「くあぁ!」
グサリと、ツキヒの手が突き刺された。
上空から剣が降ってきたのである。
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