163 『スカウト』

 相談させてくださいとの言葉に、ツキヒは口元に微笑を浮かべ、得意げに答える。


「いいですとも~。頼りになるところ、リョウメイさんにお見せしましょう~」

「おおきに。では、さっそく。ツキヒはん、王都に来て歌劇団にならへんか?」

「うそ~」

「そりゃあ、びっくりするわな」

「途中から言っている意味がわかりませんでした~。王都に行って、なにをするんですか?」


 リョウメイは苦笑する。


「まあ、歌劇団を知らなくても無理あらへんな。ツキヒはん、歌劇団っちゅうのは歌って踊って劇をする人どす。うちはスサノオはんの事業をお手伝いするために、歌劇団の運営もさせてもろてます」

「なるほど~。スカウトマンでしたか~。個人情報を盾に、そんな要求をしてくるとは~」

「名前を聞いただけでなんもせえへんわ。安心しとき。ただな、うちは陰陽師としての直感で、ツキヒはんには普通じゃないものを感じたんや。それで、《かい》っちゅう魔法の陰陽術で、怪異の力を借りてツキヒはんの資質を見せてもらいました。それによると、人の注目を集める人間と出たんです」

「歌劇団にぴったりだと」

「この《視怪》には未来の物事の良し悪しを判じる力もあってな、ツキヒはんは歌劇団として良い卦が出たんや。今すぐ決める必要はないけど、おうちの人とも相談していい返事が聞けると嬉しいと思ってます」


 と、リョウメイは締めくくった。


「じゃあ、家に案内しましょう~。この人はおれの手には負えそうにありませんからな~」

「微妙に失礼な言い方やな。ほんま、おもしろい子やで」


 それから家に戻って家族に相談すると、両親にも兄にもやってみたらどうかと言われた。

 いつもぼんやり雲を眺めるか読書をするだけのツキヒにはよい経験になるだろうと家族みんなが思ったらしい。

 また、リョウメイはよく知られた人らしく、あの碓氷氏の人間ということでの信頼も得られていた。


「最後に決めるのは自分や。ツキヒはん、どうします?」


 リョウメイに聞かれ、ツキヒは飄々と答えた。


「やってみますか~。なにかの縁、みたいですので」

「ほんまおおきに。これからよろしくお願います、ツキヒはん」

「こちらこそ、よろしくお願います~」


 後日、ツキヒはリョウメイに連れられて王都に行くことになった。

 王都へは、列車で行く。

 列車の中で、リョウメイはツキヒに言った。


「まだ言うてなかったけどな、すぐにはデビューはできへんねん」

「そんなもんですか~」

「意外にショックはないんやな」

「ショックなんてないですよ~。そういうものかと思っただけです」

「それと」

「はい」

「良い相方がいるとうまくいくって《視怪》で見えたんや」

「便利な魔法ですな~」

「で、どんな相手がいいのかも占って、どこに行くのがええかも占ったんや。そして、ついに相方も見つけたんやけど、その子はツキヒはんと同い年やで」

「へえ、おれにとっての運命の相手ですか~」

「ある意味ではそうやな。けど、その子もその子で歌劇団に向いていて、きっと良い未来になると視えた。その子にはその子の目的もある。ツキヒはんのためだけにその子がいるわけやないで」

「わかってますよ~」


 ツキヒは、どんな子に会えるのか楽しみだった。

 十歳になるツキヒにはこれまで同い年の友だちがいなかったし、自分にとって特別な友だちができるだけでわくわくしていた。


「名前はゆうよく。性格はツキヒはんとまるで違うけど、気は合うと思うわ」

「ヒヨク、か~」


 そして、王都でツキヒはヒヨクに出会った。

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