162 『オッドボール』
ツキヒは、
世界樹を抱え、サツキがこの世界に来てクコに出会ったのもここであり、サツキがヒナと出会ったのも、ルカが住んでいたのもこの照花ノ国だった。
サツキの世界と照らし合わせれば、栃木県に相当する。
その中でも、ツキヒが住んでいたのは『
北関東最大の都市・光北ノ宮も栄えているのは中心部であり、隣接するツキヒの村はのどかな田舎といえる。
そんな村の中でもツキヒの家はなかなか大きく、医者を生業としていた。
医者である父を継ぐのはツキヒの兄と決まっていたし、次男のツキヒはのんきなものだった。
自宅が医家であるため、家にいたら人が集まるし騒がしい。
だからツキヒは静かなのが好きになったし、おとなしい性格も相まって、人が集う家にいることを好まなかった。
外に出て、木陰で静かに読書をする日々を送っていた。
疲れたら本から顔をあげてぼんやり雲を眺め、しばらくぼーっとしたらまた思い出したように本を読む。
家にある医学書から、頑張らなくても手を伸ばせば届く範囲にある本はだいたい読んだ。そのおかげで知識はたくさんあるが、適度に忘れて記憶はぼんやりしたものである。
物静かでマイペースな少年に育ったツキヒだが、これからもずっと気ままに静かにのんびり暮らしていくものだとツキヒ自身が思っていた。
しかし、変化の時が訪れる。
三年前のある日、ツキヒが十歳になる年のことだった。
ツキヒの村に、とある青年がやってきた。
いつものように本を二、三冊手に持ち外に出て、木陰で読書をしていると。
そこへ、青年が通りかかった。
風変わりな青年だった。
仮面のようなメガネをかけ、一人ですたすたと歩いている。年は二十歳くらいだろうか。しかし、風貌と雰囲気が変わっているから年齢もわかりにくい。
――こんなところを通る人なんて、変わってるな~。
チラと青年を見て、また本に目を落とす。
まともに舗装されていない道だからこそ、人が通らないから、いつも静かなこの木陰は読書にちょうどよかった。
ここを通るのは道に迷った人だろうか。
青年はツキヒを見ると、近づいてきた。
「なんや変わった空気を持った子やなあ」
「……」
本から目を上げ、青年の顔を見る。
「そう警戒せんでもええんやで。うちは、旅の者やねん。ただ全国行脚しているだけや」
「……とかいって、道に迷ったんじゃないの~?」
「はは。それもあるわ。けど、迷うほど目的のある旅やないねんか」
「怪しい~」
「なら、自己紹介したるわ。うちは
「ますます怪しい~」
「碓氷氏って知ってる? そこでは軍監っちゅうのもしとんねん」
「そういえば、
「せや。そのスサノオはんのお手伝いがうちのお仕事の一つやねん。陰陽師としての仕事はまた別やけどな」
話を聞いて、ツキヒは聞いた。
「おれも名乗ったほうがいいですかね~?」
「普通は名乗るもんやろけど、まだ子供やしうちのこと怪しいと思っとるんなら構わへんで」
「しょうがないな~。そこまで言われたら名乗りましょう」
「おお、意外にも名乗ってくれるんやな。子供って言われて怒ってるわけでもなさそうやのに、変わった子やなあ」
「
「ツキヒはんか。ええ名前やな」
「そうでしょう」
と、ツキヒが胸を張る。
「名乗ってくれたお礼に、ちと占ったるわ」
「え~」
「不服なんか?」
リョウメイが不思議そうに聞くと、ツキヒはあごに手をやりむむむと眉を寄せて、
「怪しい~。おれの名前を知って、お兄さんに良いことがあるんですか~?」
「ないわな。けど、せっかくや。ここで会ったのもなにかの縁やろ?」
「リョウメイさんが言うと深いですな~。意味深~」
「深いの意味ちゃうやろ。うちがそんなに怪しく見えるんか?」
「少なくとも、普通じゃありませんな~」
「ほんまに変わってるのか勘がいいのか。おもしろい子やで」
と苦笑を浮かべてつぶやき、リョウメイがじゃらっと数珠を鳴らした。
数珠は手首にあったらしく、それが急にリョウメイの手で音を立てたので、ツキヒは興味深げに見つめていた。
「おぉ~、かっこいい~」
「これは怪しく見えへんねんな」
ツキヒの感性にリョウメイはまた苦笑する。
だが、リョウメイは次に、ニヤリと笑った。
「ほほーん。やっぱりそうや。うちの第六感にも狂いはなかったようやな。ツキヒはん、ちいと相談させてください」
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