160 『パワーコントロール』
サツキは最後の攻撃を仕掛ける準備ができた。
とはいえ、懸念がまったくないわけじゃない。
――魔力の暴走をコントロールするのは難しい。今の俺にはできない。それでもわずかなコントロールは必要だろう。仮に全力を叩き込むと、ヒヨクくんやツキヒくんにどれだけのダメージを与えてしまうかわからない。でも、掌底で身体に接するギリギリなら、吹き飛ばすのに足るエネルギーになると思われる。だから、問題は《波動》の完全なコントロールというより、可能な限りの魔力制御と俺の体術だ。
複合的かつ全体的なコントロールということになる。
そして、ヒヨクとツキヒに対して繰り出すべきは、掌底の寸止めということになるだろうか。あの二人を相手にそれをするのは技術を必要とすることだろう。
また、《シグナルチャック》にも不安がある。
――肺と心臓は、どちらかが停止すればもう一方も連動して停止していくことになる。心肺停止に持ち込むとき、どっちを先に止めるかはツキヒくん次第。まだ肺を止める信号は見たことがないけど、その可能性も考慮すべきだよな。ツキヒくんがあえてそれを見せずにいるのか、どっちを狙っても同じだと考えて肺は無視しているのか。それはわからないが。
もし肺をやられたら、知らない電気信号の波長にサツキの判断は遅れてゆく。そのせいで隙を見せることになるかもしれない。
――だが、俺が心臓や腕など使用頻度の高いほとんどの電気信号を判別できるようになっていることまでは考えないはず……。いける、か……?
サツキがそう思ったとき、ヒヨクの攻撃がきた。
素早く《
そうした攻防をしていたところで、サツキは《
――ツキヒくんが、剣を捨てた……!?
ツキヒが長巻を手放して、《シグナルチャック》でミナトを狙い打ちしたのである。
しかも、両手で狙っていた。
ミナトは、あっという間に両手両足を封じられてしまった。
「両足も封じたよ~」
「あはは、やられちゃったかァ」
ツキヒは左右の手で違う信号を送れる。それをミナトにも教えたはずだったが、予想外の捨て身の《シグナルチャック》に、ミナトはやられたらしい。
サツキはヒヨクの攻撃に備えながら、《
「うん、やってやったよ~。一歩間違えたら、もっと深く斬られて出血多量で死にかねない。でも、それくらいじゃないとミナトは止められないもんね~」
「僕はこのまま立ち尽くしているが、これで勝ったと思うかい?」
「まさか~。ミナト、なんでもアリなんだもん。だから、心臓も止めてあげるよ~」
ツキヒが指先をミナトに向けた。
「《シグナルチャック》、発動」
そう言ったと同時に、サツキには見えた。
――見えた! ミナトは、《瞬間移動》を使った。消えた先は……でも、なぜ……? いや、そうか、それが狙いか!
サツキには、ミナトがどこに《瞬間移動》したのか、そしてミナトの狙いまでもがわかった。
消えたミナトを探すツキヒとクロノ。
だが、クロノは実況を忘れない。
「ミナト選手が消えてしまったー! いったいどこに行ったのでしょうか! まさか消える魔法が使えるのか!? まるでわからなーい! だれかわかる人がいたら教えてくれー! ただし、フェアな戦いのために、舞台上の三人にはナイショで頼むぞ!」
サツキは右の拳を強く握った。
――ミナト、俺もデータはおおよそ集まったから大丈夫だ。俺も仕掛けていくぞ!
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