158 『アンバランス』
ミナトとツキヒの戦いの間にも、サツキとヒヨクはせめぎ合っていた。
ヒヨクはサツキの力の高まりに、簡単には手を出せない。
――つかもうにもつかみに行けない。サツキくんの左目がもっと強く輝いて、ぼくにプレッシャーを与えてくる。
圧倒するほどのパワーをビリビリと感じて、触ったら弾かれると直感した。
――今サツキくんがまとっている空気は、まるで大きな弾丸のようだ。強烈な回転をし続けるそれに触れたら、弾かれて怪我をする。そんな想像が浮かんでくる。
左目の妖しい輝きに、少し恐怖さえしていた。
――でも、全身のすべてがくまなく《波動》に包まれているわけじゃない。
そこに勝機を見出せる。
――ぼくにはサツキくんみたいに相手の魔力を可視化する力はない。だけど、あの《波動》のビリビリバチバチする感じは全身を不規則なバランスで巡っていると肌感覚で察せられる。
このバランスの悪さには、二つの意味が読み取れそうだった。
――サツキくんのパワーの変化について、考えられる要因は二つある。一つ目、サツキくんの《波動》は高まるパワーを全身にみなぎらせてあとから一カ所に集める手順で扱うものだから。二つ目、今サツキくんは魔力をコントロールできないから。理由はわからないけど、魔力が暴走した状態にあって、本人も溢れるパワーに振り回されている。そのパターンもあり得る。
いずれのケースであっても、《波動》のパワーが高まっていることは疑いようがない。
――できれば後者であってほしい。そうすれば、戦い方によってはサツキくんのパワーを消耗させられる。長期戦に持ち込むのが吉。逆に前者であった場合、《波動》のパワーを集めてうまくまとめるのは簡単じゃないはずだから、早々に隙を突きたい。パワーをまとめようとしているところに仕掛けるのがいい。つまり、短期決戦で全力の《波動》を使わないようにしなければならない。
あの恐ろしいほどの《波動》の力に対抗するためには、その二つの道を選ばなければならないのだ。
――判断が遅れたら、後者の場合を想定した戦い方でいくしかない。でも、早計に攻めかかれば、本人さえ制御できない《波動》の攻撃を乱暴に受けなければならなくなり、一度でもそれを受ければ再起不能。どうする……?
実は、ここでの《波動》に対するヒヨクの危機意識は正しかった。
ロメオがサツキと修業したとき、《波動》にはバリアのようなものを感じると言った。
「たとえるなら、およそほとんどの人が使う魔法が風船のようにふわりと飛んでくるのに対して、サツキさんの《波動》は密度を持つ球体が回転しながら飛んでくるようなもの。それを破裂させる針や槍をワタシは創りますが、その球体の回転力や重量が強くなれば、破壊は困難になる。といったところでしょうか」
この評価と同じく、ヒヨクが感じた大きな弾丸のような感じというのも、ロメオと見え方が似ているものだった。
それというのも、ヒヨクの《
ヒヨクはただ下がって様子見をするほど、今の状況に余裕を感じていない。
少しでもサツキの精神をかき乱すため、攻撃は仕掛けていく。
「《
球体状の魔力をひょいと投げて、サツキをそちらに引きつける。
それに合わせて、ヒヨクは《波動》でバリアされていないように感じられるところをつかみにかかる。
だが、サツキも《
――読めた! 力を溜める動きではない。つまり、サツキくんは《波動》のエネルギーを集めようとしているわけじゃない。サツキくんは魔力をうまくコントロールできていないんだ!
先程予想した、全身にみなぎらせた《波動》を集中させる、という性質と狙いはサツキにはない。
――本人さえ制御できず、パワーに振り回されている! よって、急いで隙を突く必要はなく、溢れるパワーをアースして消耗させるような、長期戦が正解だ!
正確な読みができると、ヒヨクの動きには余裕ができる。無理な攻めをしなくて済む分、サツキの攻撃を封じるようなスタイルでいけばいい。あとは、サツキが《波動》に振り回され、消耗してくれる。
その時を待つばかりだ。
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