153 『グラブオアスルー』
ミナトはよけた。
ツキヒの《シグナルチャック》は、指先の示す先にターゲットがいなければ効果がない。
しかし、ツキヒはよけられながらもう片方の手の指でミナトを捉えた。
「あ……っと」
がくんと膝が崩れて、そこにヒヨクが手を伸ばす。
「ミナト選手、ツキヒ選手の《シグナルチャック》の手にかかって、膝から崩れていくー! 続けてヒヨク選手がつかみにかかる! なんという流れるような連携プレーだ!」
刀を相手に距離を保っていたヒヨクだったが、一瞬のうちにぐいっと距離を縮めて手が伸びる。
――心臓ではなく、膝だったのか!
サツキがそう思ったとき、《シグナルチャック》はサツキにも向けられた。
「っ!」
予想外のことに、サツキは目を大きく見開いた。
――俺には、心臓!? ミナトには足の筋肉を動かせなくする電気信号を送ったというのに、俺には心臓の動きを止める電気信号を送れるのか! つまり、左右の手で別々の対象を設定して《シグナルチャック》を送れるということじゃないか!
即解除するために、サツキは《
まだヒヨクとツキヒまで距離があるため、サツキは解除を阻害されずに済む。
だが、ミナトはどうであろうか。
《シグナルチャック》で心臓を止められ、それを解除しながらも、サツキは走り続けていた。
ミナトはヒヨクにつかまれかける。だが、膝が崩れ前のめりに倒れかかっていても、手は動かせる。
刀を舞わせていた。
「《
ブワアァッと風が立つ。
まるで突然そこに竜巻が発生したように強風が吹き荒び、ヒヨクとツキヒは風の刃に斬られ、血が噴き出した。
「トルネードだー! ミナト選手の《
ヒヨクがつかんだのは、ミナトの腕だった。
「つかんだよ! これで、半透明化も使えない!」
「いやあ、お見事」
ぽつりとつぶやき、ミナトはヒヨクに押さえられる。
――ミナトくんを投げても意味がない。おそらく、ミナトくんは投げても戻ってこられる。消えて高速で移動できる魔法がある限り、投げ技はタブーだ。ツキヒにいくつかの機能を止めてもらってからでないと場外にはできない。だから、骨を折る!
ヒヨクがミナトを組み敷こうとする。
だが、サツキがヒヨクに迫っていた。
「邪魔はさせないよ~」
ツキヒが長巻を構え、サツキの前に立ちはだかる。
すぐにサツキも抜刀した。
「通してもらう」
キン、と刃と刃がぶつかり合う。
「サツキ選手がミナト選手を助けに行くが、ツキヒ選手がそれを許さなーい! 刀と長巻の戦いに、サツキ選手は攻めきれずにいるぞー!」
何度か打ち合って、ツキヒが言った。
「へえ。思ったよりやるね~」
「はああああ!」
力で押すが、サツキの剣をツキヒの長巻は平気で受ける。サツキには《波動》の力があるとはいえ、パワー勝負では分が悪い。魔力を溜めて一撃にかけて戦わないと難しそうだ。
「《
「くっ」
サツキの《緋色ノ魔眼》は、ツキヒの剣の軌道さえしっかりと見えていた。見えなくなる剣だが、これは光の反射や視線誘導、剣の軌道などあらゆるシチュエーションを利用した消える剣らしい。
「おお、すごい~」
「一瞬、見失いそうなったよ」
「じゃあこっちはどうかな~? 《
「うっ」
今度は、見えるのに透かされる剣。しかしこれも、剣の軌道が変わってうまくこちらの剣を透かす、超絶コントロールとみた。
「へえ。やる~」
そうしている間にも、ミナトはヒヨクに腕を折られそうになっていた。
「さて。折らせてもらうね」
「まいったなァ、そいつは勘弁だ」
と、ミナトがそう言ったときには、ミナトの姿はもうヒヨクの下にはなかった。
――ふわっと浮いた感覚がした! ミナトくんが抵抗してぼくを浮かせてどかせ、逃れたのか!? ぼくも一瞬だけ手を離していたかな……? 《
ヒヨクがぐるりと見回す。
ミナトは、少し離れた場所に悠然と立っていた。
これには、クロノが興奮して言った。
「今にも骨を折られそうなところだったミナト選手が、逃れたー! しっかり組み敷かれていたのに、どうやって逃れたんだ!? すごいぞ、ミナト選手! ワタシにはなにも見えませんでした!」
ヒヨクは悔しさに拳を握りしめる。
「どういう理屈なんだ……」
ここまでにヒヨクとツキヒが共有していたミナトの分析結果が、間違っていたのだろうか。
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