154 『アースストラクチャー』

 ――ミナトくんには、半透明化の魔法がある。それによって、人体以外の攻撃を透かすことができる。そう思っていた。でも、本当の透明化と、人体までも透かす魔法も持っているのか……!? それとも、やっぱりぼくが一瞬だけ手を離していて、その隙に逃げられたのか? その際に高速移動を使った可能性はあるけど、高速で移動できる魔法そのものにも、もっと特殊な効果があるのか?


 そういえば、ツキヒは高速移動の魔法について気になることを言っていた。


 ――確か、ツキヒはミナトくんのそれを地中に潜ったり宙を飛んだりするものかもしれないと言った。あるいは、風や空気に溶け込むものかも。そうした予想をしたが、そんな感じはなかった。となると、「完全な透明化」あるいは「ぼくの《中つ大地ミドルアース》さえ逃れるパワーとスピード」。それがミナトくんの力なのか。


 傷つき破れた袖をちぎって、止血する。

 ヒヨクはそれからミナトを見据えて、


「やっぱりぼくにはキミがどんな力を隠しているのか読み切れないようだ。でも、次は完全につかまえる」


 その言葉を聞きながら、ミナトはツキヒの《シグナルチャック》をよけてにこりと微笑んだ。


「そうこなくちゃね。僕もあのパワーから逃れるには骨が折れるし、本当に骨が折れる前に勝たせてもらうとするよ」

「言ってくれるね」

「あとは、ツキヒくんにも相手をしてもらいたいなァ」


 一歩、二歩と進む。

 が。

 三歩、四歩と移動速度が明らかにおかしく速い。

 すぅっとツキヒのそばにきて、サツキとツキヒの剣がつばぜり合いするそこに、ミナトの剣が伸びた。

 ツキヒの剣が弾き飛ばされ、ミナトは剣を構えたままサツキの横に来て言った。


「どうやらヒヨクくんの《中つ大地ミドルアース》には、引力ってのが弱まる瞬間があるみたいだね」

「弱まる、だと……?」

「ほんの一瞬だから、気のせいだったかもだけど、《中つ大地ミドルアース》の性質である可能性も高い」

「……ふむ。なるほど、そうか」


 サツキが考える顔になるが、驚いたのはヒヨク自身とツキヒだった。


「え、弱まっていた……のか?」

「うそ~。そんなの初耳~」


 もちろん、《中つ大地ミドルアース》の名を公開したのはこの日この試合が初めてだから、『司会者』クロノもびっくりだ。


「《中つ大地ミドルアース》にはそんな性質があるのか!? 本当だったら、一度つかまっても、《中つ大地ミドルアース》から逃れることができるのでしょうか! ここからのサツキ選手とミナト選手の攻略にも期待したいところです! 逆に、一度ミナト選手に逃げられたヒヨク選手としては、二度目は避けたい! 今度こそ完璧に捉え、戦闘不能にしたいことでしょう!」


 ファンたちからは、


「あたしだったらもうずっとつかまってたいのに~!」

「今度こそつかまえちゃってー! 頑張ってー!」


 と声援が送られている。

 クロノの実況中も思考を巡らせていたサツキは、とある考えに思い至る。


 ――もし本当に小さな星と呼べる性質を持っているなら、ミナトの言っている引力が弱まった感覚の意味って……。だが、地球とは違って、公転運動はしていないし……。


 サツキはミナトに質問した。


「さっき、ミナトはなにか動かなかったか? 逃れるために、どんな動きをした?」

「たいした動きはしていないよ。ちょっとひねったくらいさ」


 ひねるとは、身体をひねって左右どちらかに身体を回転させたということだろうか。


 ――ひねる……? それって、擬似的な……そうか!


 ミナトにもらったヒントで、サツキはひらめいた。


 ――わかったぞ! だが、《中つ大地ミドルアース》は投げて使うこともできる。それらがいくつ同時に発動できるかもわからない。そのすべてにタイミングを合わせて攻略するのも大変だな。


 それでも糸口をつかんだ。

 サツキはミナトにささやいた。


「《中つ大地ミドルアース》の弱点がわかったぞ。よく聞いてくれ」

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