152 『ウェーブレングス』

 ツキヒがサツキに声をかけた。


「もう治ったの~?」

「うむ。いつでも戦える」

「そっか~、すごいな~」


 今度はミナトがヒヨクに聞いた。


「それで、そちらはどうかな? もう準備ができていたらいいんだけど」

「準備ならできてるよ。キミたちを待っていたんだ」

「でもその前に、教えてあげるよ。おれの魔法、《シグナルチャック》の秘密。て言っても、サツキの言う通り。実はそうなんだよね~。さすがは《波動》の使い手、こんな波長にも気づけたことに拍手~」


 パチパチ、とツキヒは二度ほど手を叩いた。


「最初、ツキヒはこれを目や口など、開閉できる器官にのみ働きかける魔法だと思わせてコロッセオで戦ってきた。そのうち強い人たちを倒すために、鼻とか耳とかにも使うようになった。でも、さっきのえんさんとの戦いでは腕とか脚とかまで止めざるを得なかった。それほど強敵だった」

「でさ。心臓を止めるのは、レオーネさんとロメオさんとの戦いまで温存するつもりだったんだよね~。だけど、サツキとミナトは決勝まで来てくれた。だからこの試合、サービスで初っ端からサツキの心臓を止めてあげたんだ~」


 サツキは淡々と言葉を返す。


「わざわざ手の内を見せてくれたことには感謝する。おかげで死にかけたが、そのあと警戒して戦えた。《中つ大地ミドルアース》もその本当の力を見せてくれたことには礼を言おう」

「それでも、僕の魔法については言えないけどねえ。僕たちにはずっと先まで続く、大きな目標がある。今すべてを晒すわけにはいかないのでね」


 ミナトが飄々とそう言うと、ヒヨクは爽やかに微笑んだ。


「わかってるよ。リョウメイさんもそんなことを言っていたし、ぼくらはキミたちを応援するつもりだ。でも、この試合は勝たせてもらう。ぼくの《中つ大地ミドルアース》を攻略してみせてよ」

「おれの《シグナルチャック》もさ。大丈夫、死にはしないから。てことで、かかってきなよ。サツキ、ミナト」


 ヒヨクとツキヒに挑発され、サツキが言った。


「そろそろ決着をつけようか」

「いくよ」


 刀に手をかけたミナト。

 そこから、『司会者』クロノが実況していく。


「両者、並々ならぬ思いもあるようですが、試合の勝者は常にどちらか一方だけ! 今回の『ゴールデンバディーズ杯』はどちらが勝つのでしょうか! ダークホースのサツキ選手とミナト選手か! それとも、若き実力派バディーのヒヨク選手とツキヒ選手か! さあ、まず動いたのはミナト選手です!」


 駆け出したミナトに、ツキヒも《シグナルチャック》を放つ。


「突撃するミナト選手に、ツキヒ選手が《シグナルチャック》を使ったー! 狙いはどこだ!? どこを触ったのが最後だったのか! サツキ選手とミナト選手は把握できているのかー!?」


 しかし、ミナトも当然これを避ける。


「鮮やかな身のこなしだミナト選手ーッ! 華麗にかわして、ツキヒ選手との距離を詰めます! サツキ選手はまた同じ手はくらわない! ツキヒ選手の《シグナルチャック》が連続で繰り出される中、それも解除し、よけて、捌いていきます!」


 ツキヒは何度も《シグナルチャック》を放つが、サツキもこれをよく観察して、最初に受けたときには《打ち消す手套マジックグローブ》で解除しつつ、


 ――また心臓で来たか。早々に勝負を決めるつもりだな。


 と理解し、以降はよけていく。


「ミナト、狙いは心臓だ! 気をつけろ」

「ああ」


 だが、ミナトが近づくと、ツキヒはまた身体に触れて、心臓ではない機能を止めにかかった。


 ――波長が変わった! 次はどこだ!?


 サツキもヒヨクとツキヒのいる場所へと走る。

 長巻を構えながら、ツキヒはミナトに指先を向ける。


「止まれ」

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