151 『ファイアリーアイ』

「どうだい? サツキ」


 問いかけに、サツキは返事をしない。

 苦しげな息をしていた。

 だが、少しずつ壊れた身体が治ってゆく。いびつに折れ曲がった指と腕が元の形に戻ろうとするように、修復がなされている。

 サツキは無事なほうの手で左目を抑えて、


「熱い。左目が熱い」


 かすれる声でつぶやいた。


「なるほどねえ。その目のおかげで、身体が治っているのか」

「おそらく、そうだろうな」

「で、戦えそうかな?」

「まだ試合は終わってない」

「だよねえ。もし時間が必要なら、僕が二人をまとめて相手にして、治すための時間を稼いであげるよ。どれくらい時間が欲しい?」

「わからない。だが、そんなにいらない気がする。向こうの作戦タイム中には、俺も復活するさ」

「心強いや。じゃあ、こっちも作戦タイムだ」

「うむ」


 起き上がらず、サツキは気づいたことをミナトに告げてゆく。


「まず、情報共有だ。わかったことはあるか?」

「いやあ、そんなに。サツキは?」

「ヒヨクくんについては、《中つ大地ミドルアース》が星と同じような働きを持つ魔力の球体だとわかった。引力を持ち、近くにあるものを引き寄せる。ただし、引き寄せられる物体は、一つだけかもしれない」

「一つだけ?」

「俺とヒヨクくんが同じくらいの距離にいても、引き寄せられたのは俺だけだったことがある。つまり、そういうことだ」

「へえ。そんな性質がねえ」

「また、《中つ大地ミドルアース》はヒヨクくんの手や足を離れて、近くに放ることができる。俺の後ろに投げられて、俺は態勢を崩されてしまった」


 それでサツキはヒヨクに倒され組み敷かれてしまったのである。


「なるほど、おもしろいね。で、ツキヒくんは?」

「ツキヒくんについては、《シグナルチャック》の正体は電気信号だということがわかった」

「電気信号?」

「指先から飛ばされる信号は波形になっている。妨害信号だと思われる。その波長が特定の部位に作用すると、そこを通る電気信号が妨害されるんだ」

「まだよくわからないけど、電気を飛ばしてるってことだよね」

「そうだ。人間の身体には微弱な電気が流れている。この電気は人体の各機能を動かすための信号の役割を果たしているんだ。そうなると、信号を妨害されるということは、脳や身体が本来送り合う命令が邪魔されることを意味する」

「つまり、信号が届かなくなって、腕を動かしたくても動かせなかったり、心臓が鼓動したくても筋肉がその命令を受けられないってことかい?」

「ああ。ツキヒくんが《シグナルチャック》の発動条件に、自身の身体に触れるのは、似た波形を飛ばして打ち消すためだと考えられる」


 ミナトが聞いた。


「サツキは、波形を見ればどこに作用する信号なのかわかるのかい?」

「まだわからない。何度か見えればわかるようになるだろうが、判別はツキヒくんが自分の身体のどこに触れたかをよく見ておくことだ」

「だよねえ。そこまではわからないかァ」


 実は、見分ける方法はある。


 ――視認できた波形、あれは心電図のようだった。むろん、電気信号は場所によって波形も変わるから、データがあれば本当に見分けられる。指先は電気信号の波が荒いし、手首のほうが細かい。動かす筋肉によって、波形だけじゃなく電圧まで異なる。それらを見極められれば、どの筋肉がどう運動するのかを推測できるのだ。


 だが、そうしたデータを収集して推測するより、ツキヒがどこに触れてなにを狙っているのか、よく観察したほうがこの場合は効率がいい。少なくともミナトはそうだ。

 一応、サツキはツキヒの電気信号のデータは集めるつもりでいるが、それをミナトに言っておく必要もなかった。

 サツキは立ち上がって、


「あとは、俺たち二人の連携次第だ」

「もう大丈夫なのかい? サツキ」

「腕も指も、おおよそ治った。力もみなぎってる」


 と、拳を握る。

 復活したサツキを見て、クロノが驚きとうれしさを交えて言った。


「おーっと! サツキ選手、また左目の力で腕まで治ってしまったようです! あれだけ痛々しく折れ曲がっていた腕がすっかりまっすぐに戻っているー! すごいぞ、まだ戦えるということか! 力もみなぎってると言っています! さあ、作戦会議も終えた両陣営! ここからどう戦っていくのか! いよいよクライマックスの始まりだー!」

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