150 『ロックアンドブレイク』
ヒヨクがサツキを組み敷いて、今度は腕を取った。
「折れて平気なら、治るまでに試合を決めるだけだ!」
サツキは恐怖で目を大きく見開く。
次に来ることがわかっているからである。
――しまった!
さっき以上の痛みを、ヒヨクはサツキに与えるつもりなのだ。
ボキボキボキッ! と、サツキの腕の骨が折れる音がした。
「うああああああ!」
普通は折れないような、肘と手首の間を思い切り折られてしまった。
「骨が折られたあーッ! サツキ選手、腕の骨が折られてしまったー! これは痛い! 悲痛の叫びだー!」
会場の人たちは、それに大きな歓声とどよめきで応えた。目をそらす人もいれば、激しい展開を喜ぶ人もいる。
「腕が曲がってるっ……」
「見てられないよ……、ヒヨクくんそこまでやらなくてもいいのにぃ」
「いいぞ! もっとやれー!」
「これで勝負が決まったんじゃないか!? とどめだ! いけー!」
こうした声が上がる中で、クコたちも痛々しさに見ているのもつらかった。
「サツキ様、なんて痛ましい姿なのでしょう……」
クコがつぶやき、リラは疑問を口にした。
「また、治るのでしょうか」
「わからないわ。あの左目がどうなるのか、見守るしかできないなんて……」
ルカもなにもしてやれないことが悔しい様子で、ナズナはサツキを見ていることができなくなりチナミに聞いた。
「チナミちゃん……なにか、できないかな?」
「今、私たちにできることはない。ルカさんも言ったように、見守るだけ」
「きっとサツキはまだ戦うつもりなんだろうな。そういうやつだ、ならオレたちは応援するだけだぜ! 頑張れサツキ!」
バンジョーが叫ぶと、アシュリーも「が、頑張って! サツキくーん!」と応援する。
ヒナは考えながら、ひとりごちた。
「やってくれるじゃない、
小さな星ともいえる性質を持つ《
サツキの叫び声を聞き、ミナトはそちらに顔を向ける。
ツキヒからは片時も目を離したくないが、サツキのピンチにそんなことは言っていられない。
目の端でツキヒが《シグナルチャック》を使ってきたとわかり、それをかわしつつ、サツキとヒヨクのほうへと駆けていった。
この展開に肩の力が抜けたのは、ツキヒの方だった。
「ふう」
息をつく。
――なんとか助かった。このままやり合うことになったら、おれが先にやられるところだったもんね~。ヒヨクには感謝だ。これで二人で戦える。
ミナトには勝てなかった。でも、二人ならやれるというところを、ミナトに見せつけるつもりだった。
ヒヨクはミナトが迫っていることに気づき、サツキを投げ飛ばすのをやめた。
――速い。ただ走ってきているだけなのに、もうぼくがサツキくんを投げる余裕さえないや。本当はこのまま投げ飛ばして骨折が治癒する前に退場させたかったけど……。
と、ヒヨクはサツキの指の骨を折った。
「うっ!」
それだけして、ヒヨクはさっとサツキから離れてミナトを警戒する。
倒れたサツキの横にミナトがやって来るが、ヒヨクを深追いするような真似はしなかった。
どうやら、ミナトのほうもここから二対二で戦うため、態勢の立て直しを図るつもりらしい。
ヒヨクはツキヒの横へと歩いてゆく。
「よく戦ってくれた、ツキヒ。ありがとう」
「いや~、ごめんヒヨク。ミナトには勝てなかった」
「仕方ないさ。剣士としては、これまで見ただれよりも強い」
「おれはもう肩を斬られて全力ではやれないかも。だけど、二対二ならいくらでもあの二人とやり合えるつもり~」
「そうだね、ツキヒ」
またいつでも戦える面構えの二人に、会場からはファンたちからたくさんの応援が降ってくる。
「それでこそヒヨクくんとツキヒくんだよ! 頑張ってー!」
「最強コンビの強さ見せて~!」
「あたしたちは二人のコンビプレーが見たいのよ~」
一方、倒れているサツキはというと、ミナトが見る限りその身体には徐々に変化が現れていた。
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