149 『レイアップシュート』
ツキヒはミナトから視線をそらさず、長巻を握り続ける。すぅっと、構えも取ってみせた。
「まだ戦えるようだぞ、ツキヒ選手! 傷つきながらも立ち向かう姿に、ファンたちも大きな声援を送っています!」
観客席のツキヒのファンたちが、頑張って声を上げて応援していた。
「そんなつらそうな顔見たくないけど、ツキヒくんが頑張る限りあたしたち応援してるよー!」
「負けないでー! 傷ついて儚げなツキヒくんも好きー!」
「あああん、あたしが癒してあげたい~!」
いろんな声援も混じるが、ツキヒはミナトから目を離せない。いつも声援に応えるようなファンサービスをするわけではないとはいえ、今はまたいつミナトに攻撃されるかわからない。次斬られたら態勢を立て直すのも難しいだろう。
――にしても、ミナトの魔法はなんだったんだ? 半透明化は一つとして、もう一つ。姿が消えるあれは、おそらく高速で移動するもの。ただ、姿まで見えなくなるほど速いってのが想像できない。どこか、地面の中とか経由してるのかな……? いや、前の試合では空からも現れた。どういうことなんだ……?
分析は困難を極める。
――ただ、もしそんなことができるなら、高速移動するまでのチャージとか条件があって然るべきだよね~。連発されなければ、まだチャンスはある。かな……?
それは希望的観測でしかない。
だが、その想定をしながらでないと、もう勝ち筋を作ることさえできない実力差があった。
――ミナトには勝てないかも。でも、それは一対一での話。これは二対二のダブルバトル。サツキを先に始末すれば、二人でなら勝てるかも。ヒヨクがいっしょなら。だから……。
ツキヒは指先をサツキに向けた。
まだ、心臓を触ったあとに別の場所を触れたりしていない。
すなわち、《シグナルチャック》の発動条件である対象設定は、心臓のままだ。
したがって、指先を向けられて《シグナルチャック》が発動すれば、その人間の心臓が止まる。
サツキを先に始末すると決めたツキヒだが、その指先にサツキは目ざとく気づいた。
――来たか、《シグナルチャック》!
目線の動きなく気づいた。
それは、《
すべての方向を見透せる目で、物体ごとの透視が可能な《透過フィルター》の応用技である。
また、《
これらの効果で、サツキはあるものを見た。
――波形になっている!?
指先からは、波形の信号が発せられていたらしい。
だから指先を向ける必要があったのだ。
この信号はまっすぐに進み、ターゲットを追跡するように曲がることがない。
――《シグナルチャック》は、波形の信号を指先から飛ばす魔法。それも、パルスのような妨害信号になっていたということか。直進性を持ち、曲がることはない。
そうすると気になるのは、どうして身体の一部に触れてから指先を向けるのかということだ。
サツキが避けると、続けて信号が飛んできた。
今度はよく注視してみると、
――信号の波形……あれは、電気信号、なのか?
信号は魔力によって波形に飛ばされている。その魔力には、電気のような質感が見えた。
ツキヒの《シグナルチャック》と連携するように、ヒヨクもサツキに迫る。
――手首も不完全ながら治ってきている。だが、まだ足技で……!
足技で様子見をする。
そう思って身体をかがめたとき、サツキはヒヨクの手の中に魔力を見た。
球体状の魔力の塊、《
さながら小さな星とも呼べるそれは、引力を持つ。
ここに引き寄せてつかみかかるのが、柔術を得意とするヒヨクの戦法だとサツキは理解していた。
だが、ヒヨクはその球体状の《
まるでバスケットボールのレイアップシュートのような、そっと置くみたいな手首のスナップで、サツキの少し後ろにやったのである。
――投げられるのか……!
すると、サツキは後ろに引っ張られて、腰が浮き、かかとだけが地面に接する形になった。
――こんなことされたら、魔力を視認できる俺でもないと、なにが起こったかわからない。わからないまま、体勢を崩される……!
つま先が浮いたサツキに、ヒヨクはズボンの太もものあたりをつかみ引っ張った。
サツキが仰向けに倒れかかる。
ヒヨクは爽やかな笑顔で言った。
「つかまえた!」
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